朝日放送『ビーバップ! ハイヒール』「身近に潜む 知って得する化学反応」出演
朝日放送 | ビーバップ!ハイヒール 「身近に潜む 知って得する化学反応」
朝日放送の『ビーバップ! ハイヒール』に出演しました。テーマは「身近に潜む 知って得する化学反応」です。
身近な現象が、実は化学反応で成り立っていること、その意外性と面白さを。そしてその化学反応が、危険な事態を引き起こす場合もある(2012年のアルミ缶破裂事件などなど)も紹介&解説。
この『ビーバップ! ハイヒール』は、9年ぶり2回目の出演になります。前回は、イケメン科学者のおはなし。
こちらの本は、加筆修正して文庫化されています。
面白すぎる天才科学者たち 世界を変えた偉人たちの生き様 (講談社+α文庫)
- 作者: 内田麻理香
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: 文庫
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9年という月日が経つと、いろいろ変わりますね。この番組、私の回で580回だという長寿番組になっていました。それも納得。教養エンターテイメントという難しい分野で、面白さと学問的正しさを両立すべく、スタッフの方々が頑張っていらっしゃる。今回の化学反応の回は、地味なテーマにも関わらず、時間ぎりぎりまで妥協せず(こちらがあれこれ細かいツッコミを入れたにも関わらず)番組を作ってくださいました。
スタジオの雰囲気も楽しい。ハイヒールのおふたりは、相変わらずゴージャスで楽しいお姉様たちでした。筒井康隆さんも江川達也さんもレギュラーを続けられていますが、知的で洒脱。あの居心地の良さはなんなんだ。
教養×エンターテイメント、という分野で、これからも楽しみにしています。
毎日新聞「今週の本棚」『我々みんなが科学の専門家なのか?』書評寄稿
毎日新聞の「今週の本棚」に、書評を寄稿しています。
今週の本棚:内田麻理香・評 『我々みんなが科学の専門家なのか?』=ハリー・コリンズ著 - 毎日新聞
「第三の波」提唱者のコリンズ先生の新刊です。一般向けを意識していて、読み物としては面白いのですが……一般向けとしてはわかりにくいですね。たぶん科学論入門の教科書レベルだと思います。素人が専門的問題に取り組むときの処方箋というか戒め、にあたるのでしょう。ポピュリズムに陥らないための市民参加の心得というか。
「三つの波」の説明や、コリンズの細かい専門家の分類は飛ばしました。第一の波、第二の波……という具合にちまちま書いていたら「こんな本、誰が興味を持つんだ?」というような書評になってしまったので書き直し。
しかしこれ、一読するだけでは「第一の波とどう違うんだ、ただのエリート主義では?」と誤解されそうな(もしくは素人は専門家に口を出すな的な考えの持ち主には歓迎されそうな)難しい本です。
コリンズの主張は「第一の波」への揺り戻しをはかるものではありません。「第二の波」における「科学にもっと民主主義を」という風潮に釘を刺し、非専門家の市民参加に一定の条件を課す。ただ、それは「科学が専門家だけのものではない」という「第二の波」の前提を共有した上でのこと。
そのために、専門家とは何かを細かく考えていく専門化論が中盤で展開されます。
ただ、失墜した科学(者)の権威の(ある程度の)復権を試みるのですが、その根拠が「科学者のエートスを信じよう」だけでは少し説得力に欠けるような気がします。あと、ここでの専門化論は、「科学者」「酪農家」など、名前のついた職業の専門性を判断して分類するのには使えると思いますが、重要なステイクホルダーになる「住民」などの専門性はどう扱うのか。そのあたりがよくわからない。
このようにあれこれ疑問点が湧くのですが、それだからこそ、多くの人に議論のきっかけを与えてくれる一冊だと思います。
毎日新聞:鼎談書評「南方熊楠生誕150年」
本日の毎日新聞で南方熊楠の生誕150周年を記念した鼎談書評が掲載されています。鼎談書評は、毎日新聞の読書欄「今週の本棚」で企画される企画です。月に5回目の日曜日がある日に掲載されます。前は憲法の回でお呼ばれしました。
鼎談書評は、公開の読書会という趣でしょうか。ひとりで読むより、数人で読んで語り合う方が勉強になるよね、的な。
今回は池澤夏樹さん、中島岳志さんとご一緒しました。鼎談そのものも刺激的で勉強になります(私なんかはついていくのに精一杯)。そして、南伸坊さんに似顔絵を描いていただけるなんて、なんて役得(前は和田誠さんでした)。熊楠のキノコの図譜風イラストですね。
対象本はこちらの三冊。
熊楠研究で名高い、松居龍五さんの決定版。今のところの熊楠研究の決定版でしょう。南方熊楠のバックグラウンドがよーく理解できます。
池澤さん編集の日本文学全集の「神社合祀に関する意見」。この文章だけでも、熊楠が古今東西を縦横無尽に駆け巡る学問をした者であることがわかります。そして、彼の書く文章はひたすらロジカルで惚れる。
私が提示した本です。「粘菌」というお題を頂戴したのですが、キノコの本です。粘菌で有名な南方熊楠ですが、粘菌での優れた書籍が見当たらない(私の観測範囲ではありますが……ご存じの方いらっしゃったら、教えて下さい)。これは、熊楠がいかに優れたサイエンティストであるかを伝えています。彼の科学研究の方法も非常に興味深い。地元の人たちとの共同体を作っている。いわゆるアカデミズムに属してはいないので「アマチュア」と言われるのでしょうが、世界的に勝負できるだけの研究共同体を形成している。
拙著でもかつて南方熊楠を取り上げたことがありますが、
面白すぎる天才科学者たち 世界を変えた偉人たちの生き様 (講談社+α文庫)
- 作者: 内田麻理香
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: 文庫
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まあ、こんな風に彼の特異なキャラクターに注目したくなりますし、そのことに言及して終わりのようなコンテンツは多いのですが(自分も反省している……)今回の鼎談書評は、南方熊楠の業績の方に焦点を当てたものになっていると思います。
共同通信社『世界でもっとも美しい量子物理の物語』書評寄稿
共同通信社に『世界でもっとも美しい量子物理の物語』の書評を寄稿しています。全国各紙で配信予定です。
量子力学が自然科学の文脈を離れ、日常で受容されている様を描いた一冊です。
米国では、「量子なんとか」という言葉がポピュラーなようですが、その事情は日本とは異なるな、と感じました。日本で量子論絡みの言葉が使われているのって、せいぜい「シュレーディンガーの猫」くらいでしょうか……? これも、ポピュラーとは言いがたい気がしますが。
この記事を読んでも、国によって文化差があるなと感じます。ここで挙げられている中で、日本でも関係しそうなのは「自然」「天然」「オーガニック」という言葉の使われ方でしょうか。あと、日本特有のものとして、ポケモン絡みの「進化」の用法があるかもしれません。
自然科学の文脈を離れ、自然科学の言葉や概念が日常で使われる様は、量子力学の分野に限らないことは言うまでもありません。
東北大教養教育特別セミナー「学問にとって『役に立つ』とはいかなることか」講演
第7回教養教育特別セミナーのお知らせ – 東北大学教養教育院
東北大学の新入生向け特別セミナー「学問にとって『役に立つ』とはいかなることか」で講演しました。
私の発表のお題目は「複数の『メガネ』を持つために」。
個人的にも、大学教育でさえ「役に立つ」を求められることには疑問を抱いています。即効的に役に立つけど、将来(数十年先という短いスパンでも)を見据えたらどうなのか? と。民間で学ぶ場ができて、それがビジネスとなっている現状は望ましいとは思います。でも、大学、特に国立大学の教育の場でも即効性のあるお役立ちを求められる状況は回避したいと思うひとりです。
こちらは、東北大の新入生向けのセミナーです。1000名集まったとか。最後のパネルディスカッションでも学生さんから質問が寄せられましたが、それが軍事研究について、などで。大学1年、しかも4月の時点でこの質問が出るという優秀さに驚きました。
『オレンジページ』「暮らしのトリビア」監修
毎日新聞「今週の本棚」『ドラッグと分断社会アメリカ』書評寄稿
本日の毎日新聞に『ドラッグと分断社会アメリカ』の書評を寄稿しています。
内田麻理香・評 『ドラッグと分断社会アメリカ-神経科学者が語る「依存」の構造』=カール・ハート著
「自伝」と「科学啓蒙書」が織物になっているような不思議な本、だけどそれだけに面白い。
著者のカール・ハート、黒人貧困層出身でコロンビア大の教授になった人で、彼の人生がドラマチックなだけに、単なるサクセスストーリーのようにも見えてしまうのですが、それは著者の本意ではないでしょう。生まれ育った環境から外部に接することで、黒人としてのアイデンティティを確立していったからこそ、独自の視点が生まれ、この本に限らず彼の生み出す研究も含め独自性が生まれていると思われます。著者がいうように「私の物語」と「科学」の二つがあることの強み。
世の中に流布する薬物や依存症の「神話」、誤ったものが多いんですね。これは米国の話ですが、日本も一緒と思われます。依存症者は正気を失って正常な判断ができない、一度薬物を使ったら依存症者になる、などなど。そもそも酒とタバコが合法という科学的根拠もないらしい。
科学の話で面白いものが多かったのですが、文字数の関係で泣く泣く削除。ラットパーク(ラットにとって快適な環境)のラットと、孤立したラットを比較した薬物投与の実験とか。ラットパークにいるラットの方が、薬物摂取に興味を示さなくなるというのですが、多くの薬物依存の実験は「孤立したラット」という条件のもと行われていると。また、著者のコカイン常用者(ヒト)を対象にした研究もハイライトだと思うので、本書をぜひ。