内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

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毎日新聞「今週の本棚」『我々みんなが科学の専門家なのか?』書評寄稿

 

我々みんなが科学の専門家なのか? (叢書ウニベルシタス)

我々みんなが科学の専門家なのか? (叢書ウニベルシタス)

 

 毎日新聞の「今週の本棚」に、書評を寄稿しています。

今週の本棚:内田麻理香・評 『我々みんなが科学の専門家なのか?』=ハリー・コリンズ著 - 毎日新聞

 「第三の波」提唱者のコリンズ先生の新刊です。一般向けを意識していて、読み物としては面白いのですが……一般向けとしてはわかりにくいですね。たぶん科学論入門の教科書レベルだと思います。素人が専門的問題に取り組むときの処方箋というか戒め、にあたるのでしょう。ポピュリズムに陥らないための市民参加の心得というか。

 「三つの波」の説明や、コリンズの細かい専門家の分類は飛ばしました。第一の波、第二の波……という具合にちまちま書いていたら「こんな本、誰が興味を持つんだ?」というような書評になってしまったので書き直し。

 しかしこれ、一読するだけでは「第一の波とどう違うんだ、ただのエリート主義では?」と誤解されそうな(もしくは素人は専門家に口を出すな的な考えの持ち主には歓迎されそうな)難しい本です。

 コリンズの主張は「第一の波」への揺り戻しをはかるものではありません。「第二の波」における「科学にもっと民主主義を」という風潮に釘を刺し、非専門家の市民参加に一定の条件を課す。ただ、それは「科学が専門家だけのものではない」という「第二の波」の前提を共有した上でのこと。

 そのために、専門家とは何かを細かく考えていく専門化論が中盤で展開されます。

 ただ、失墜した科学(者)の権威の(ある程度の)復権を試みるのですが、その根拠が「科学者のエートスを信じよう」だけでは少し説得力に欠けるような気がします。あと、ここでの専門化論は、「科学者」「酪農家」など、名前のついた職業の専門性を判断して分類するのには使えると思いますが、重要なステイクホルダーになる「住民」などの専門性はどう扱うのか。そのあたりがよくわからない。

 このようにあれこれ疑問点が湧くのですが、それだからこそ、多くの人に議論のきっかけを与えてくれる一冊だと思います。