毎日新聞『魅了されたニューロン:脳と音楽をめぐる対話』書評寄稿
毎日新聞の「今週の本棚」欄に、書評を寄稿しています。
今週の本棚:内田麻理香・評 『魅了されたニューロン…』=P・ブーレーズ、J=P・シャンジュー、P・マヌリ著 - 毎日新聞
現代作曲家であり指揮者のブーレーズ、神経科学者のシャンジュー、作曲家のマヌリというメンバーが揃った豪華な鼎談です。
- 作者: ピエールブーレーズ,ジャン=ピエールシャンジュー,フィリップマヌリ,Pierre Boulez,Jean‐Pierre Changeux,Philippe Manoury,笠羽映子
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2017/08/28
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
異分野同士の専門家の対談や鼎談は、それだけで企画として面白いものの、蓋を開けてみると、そのお題に対して表面をなぞったコメントを寄せるだけで終わってしまうものが少なくないですが。そんな心配はご無用の、見事な音楽と科学の融合を果たした刺激的な鼎談になっています。なにしろ、ブーレーズは科学的視点を取り入れて、新しい音楽制作の展開を目的とするフランス国立音響音楽研究所(IRCAM)を組織した人物で、理詰めで現代音楽を作り続けた巨匠。シャンジューは単なる音楽好きの科学者ではなく、一時期、作曲を習っていたこともある筋金入り。そこに、IRCAMの活動に早い時期から関わり、ブーレーズと父子的な関係を築いているマヌリが加わっているという布陣。
これがフランスの教養人というあり方なんでしょうか。3人とも音楽と科学以外の教養も深く、哲学や美学の話がバンバン登場します。それだけに、読み進めるのはハードではあります。でも、それがまた衒学的というわけではなく、それぞれの話題が意味を成している。知的にも感情的にも揺さぶられる、楽しい読書体験でした。
印象的な箇所は多いですが、個人的には「報酬」、「報酬の先取り」に関わる話が面白かったでしょうか。音楽の創造をする者は報酬に導かれ、そして音楽を聴く者は報酬や報酬の先取りによって楽しむ、という。
ぜひ読んで頂きたい一冊です。