内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

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毎日新聞「今週の本棚」『ドラッグと分断社会アメリカ』書評寄稿

 本日の毎日新聞に『ドラッグと分断社会アメリカ』の書評を寄稿しています。

内田麻理香・評 『ドラッグと分断社会アメリカ-神経科学者が語る「依存」の構造』=カール・ハート著

ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造

ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造

 

「自伝」と「科学啓蒙書」が織物になっているような不思議な本、だけどそれだけに面白い。

 著者のカール・ハート、黒人貧困層出身でコロンビア大の教授になった人で、彼の人生がドラマチックなだけに、単なるサクセスストーリーのようにも見えてしまうのですが、それは著者の本意ではないでしょう。生まれ育った環境から外部に接することで、黒人としてのアイデンティティを確立していったからこそ、独自の視点が生まれ、この本に限らず彼の生み出す研究も含め独自性が生まれていると思われます。著者がいうように「私の物語」と「科学」の二つがあることの強み。

 世の中に流布する薬物や依存症の「神話」、誤ったものが多いんですね。これは米国の話ですが、日本も一緒と思われます。依存症者は正気を失って正常な判断ができない、一度薬物を使ったら依存症者になる、などなど。そもそも酒とタバコが合法という科学的根拠もないらしい。

 科学の話で面白いものが多かったのですが、文字数の関係で泣く泣く削除。ラットパーク(ラットにとって快適な環境)のラットと、孤立したラットを比較した薬物投与の実験とか。ラットパークにいるラットの方が、薬物摂取に興味を示さなくなるというのですが、多くの薬物依存の実験は「孤立したラット」という条件のもと行われていると。また、著者のコカイン常用者(ヒト)を対象にした研究もハイライトだと思うので、本書をぜひ。