内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

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毎日新聞掲載『マリー・アントワネットの植物誌』

 今回、書評対象にしたのはこちらの本です。

マリー・アントワネットの植物誌: ヴェルサイユ宮殿 秘密の花園

マリー・アントワネットの植物誌: ヴェルサイユ宮殿 秘密の花園

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今週の本棚:内田麻理香・評 『マリー・アントワネットの植物誌』=エリザベット・ド・フェドー著

 美術書でもあり、科学書でもあり、歴史書でもあり……これだけ多方面の要素が融合した書籍は珍しいでしょう。フランスの老舗菓子店「ラデュレ」がフランシス・コッポラの映画に登場するお菓子を監修した話を最初に書きましたが、まさにラデュレ色。写実的な絵なのですが、ルドゥーテの手にかかると、断面図があっても! 優美さを損なわない。

 そして、ルソーの思想にかぶれていたらしい王妃が、このような離宮を大金をはたいてつくり、不自然な「自然」と戯れていたのもよくわかる。

 しかし、この書評を書くにあたり、勉強しすぎた感もない。気合い入れすぎ?

ハプスブルクの子供たち (ヒストリー・ブック・シリーズ)

ハプスブルクの子供たち (ヒストリー・ブック・シリーズ)

 この本だけでなく、ハプスブルク家の背景を知りたくて2-3冊読んだ。
 それには、この本を見たとたん、昨年見たウィーンの自然史博物館を連想したからなのですが。女傑マリア・テレジアに対し、「飾り物」として不遇だった夫フランツ一世とその娘マリア・アンナ(病弱でハプスブルク家の婚姻政略に適さないとして、母マリア・テレジアに疎まれていた)が、鉱物などを収集してつくりあげたのがその博物館のはじまりなのです。マリア・テレジアの娘のマリー・アントワネットが、世界中から植物を集め、美しい庭園をつくったことは……と考え。

不幸で、ただし裕福な人たちが、今の博物学、そして自然科学に貢献しているのではないかと想いを馳せる。マリー・アントワネットもそのひとりではないだろうか。

 というわけで、色々な読み方ができる豊穣な一冊です。
 
 そして、ハプスブルク家の歴史を見ると。「悲劇の美しい王妃(お姫様)」が、特筆すべき才覚がなく、奇矯なところがあっても、世の中での人気が高く、その背景を探りたくなる気持ちもわかりました。マリー・アントワネットも、エリザベート皇妃も。そして最近の例では英国のダイアナ妃も。私も彼女たちにたいへん興味を持つわけですが。