内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

ブログというかお仕事日記というか身辺雑記というか。

科学技術博物館「ワイン展」

wine-exhibition.com

 科学博物館で、挑戦している企画として期待して行きました……が。申し訳ありません、個人的には正直、期待外れでした。なぜ? テーマがこんなに面白いのに。
 科学館も博物館も、「もの」ありきなんだと思わされました。最初は、文章が並べられたパネルばかり。卒論生の発表を見せられているようで、げんなり。それくらい、みんな知っているって、と。なぜ、説明を長々読まされなければならなかったのか?

 途中、日本へのワイン受容のコーナーがありましたが、そのときの酒器が壊れたものばかりで「江戸時代だからそんな昔じゃないよね、どこかで壊れていない酒器を手に入れられなかったの?」とも不思議に思う。

 ワインの起源の話は面白かったのですが、その起源の地図の写真を撮ろうとした人に、スタッフが制止していたのが意味不明。ガイドブックに書かれているからか? 私もあの起源のあたりが一番面白かったと思ったのですが。
 客層は、デートしているような人たちがが多かった。「しらなかったー」「おもしろーい」と楽しんでいらっしゃった様子。そう楽しまれているならば、私の目が汚れているのか?

 科学館であれば、ブツを見せてなんぼでしょう、と思うのです。ボトルやグラスによるワインの味わいの違いとか。お子さまが入る前提であるから、レストランでワインを楽しむコーナーを別料金で、別の場所で用意したのでしょうが、それでもね。会場とリンクする場で「なるほど」と思わせるようにして頂きたかった。これでは、酒造メーカーのウィスキー工場とか、ビール工場に敵うわけない。あの場はよほど、科学的に紹介してくれる。

 様々な制限がある中で……とは思うものの、こんな「科学とワイン」という垂涎のテーマでこれ? と感じてしまいました。私の見方が意地が悪いのは認めます。そして、来館者の方々がこの内容で喜ばれるのも認めます。でも、よい素材をテーマにして、この学生の学会発表的な表現は、天下の(と思っている)科学博物館さんが、どうにかできなかったのかと思い、泣けてくるのです。

世田谷文学館イベント『ひとり漫勉』:浦沢直樹

 世田谷文学館に行くために上京したのは、浦沢直樹氏ご本人が登場する『ひとり漫勉』の企画に応募したら、当選したからでした(そうでなくても行くつもりでしたが)。

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 ラッキーです。最近、浦沢氏はNHK

www.nhk.or.jp

 という番組を制作したり、今回の個展を開催したり、マンガ家としてマンガの啓蒙・教育活動に熱心なように見える。
 実際、今回のイベントも西原理恵子の「人生画力対決」のように、マンガ家の生描きを見るようなものなのかな、と思っていたら、そんな簡単なものではなかった。

 ネームの相談から、ペンの油を落とすためにライターであぶること、下書き、枠線のペン入れ、キャラ作り、ペン入れ、スクリーントーンを貼るまで(たぶんもっとあったな……)、マンガ家としての仕事の全行程を魅せて……見せてくれた。

 しかも「編集者役」なのだろうか。放送作家その他で大活躍する倉本美津留氏が、松本人志の『一人ごっつ』よろしく、声だけでツッコミを入れる。浦沢氏も、描きながらエンターテイナーとしてサービスして喋る方だが、倉本氏のおかげで、間が空かないイベントになった。
 書画カメラではなく、NHKの用意したハイスペックな画面(どうなっているかわからないが)で映し出したのも観客には嬉しかった。

 その後、サイン会まであり。会場に行くまで、知らなかった。もちろん、頂いてきました。

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 待っているとき、「話しかけて良いものか、迷惑か……」と並びながら悩んでいたのですが、サイン券*1の名前を見て、浦沢氏から「あら、こんにちは」と話しかけてくれました。えーーーーー、認識して頂いてたのか。その後、今回のは、ほぼ打合せなしだったんですよーどうでしたかーとかのお話を伺う(舞い上がっていてあまり覚えていません)。

 どこで覚えて頂けたのだろう、と思うとまずこれかなあ。毎日新聞の書評。毎日新聞の担当者さんが、あれこれやりとりして下さったし。

今週の本棚 内田麻理香・評 『MASTERキートン Reマスター』=浦沢直樹、長崎尚志・著

 もう一つは、事務所にお邪魔して、ライターとして書いたインタビュー。ただあれで顔か名前を覚えていただいたとは考えがたい。

#09-1:浦沢直樹(漫画家) (鏡の国のサイエンス)

 とにかくそのあたりはどうでも良い。素晴らしい企画を目の前にして、しかも憧れの人に自分の名前か何かを覚えて下さったことだけで、嬉しすぎる。

 しかし、サインは150人弱したのではないかな。イラスト付き、人の名前入りで、握手付きってどんな超人だ、と思ってしまう。

 参加者は、お土産に『BILLY BAT』と福砂屋コラボのカステラまで頂戴しました。贅沢すぎる。このサービス精神にもびっくりです。

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*1:丸がついているのは「浦沢先生の負担を減らすために、姓か名かどちらかを選んでください」と言われたため

浦沢直樹展「描いて描いて描きまくる」

 世田谷文学館で開催されている、浦沢直樹展「描いて描いて描きまくる」をみてきました。

 マンガ家の個展はそこそこ増えているとはいえ(過去に他のマンガ家の展覧会も観てきた)、浦沢氏のような圧倒的な原稿の物量で「魅せる」展覧会は初めてです。
 

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 浦沢氏の代表作品の一巻分の原稿を展示。初期から修正(ホワイトを使う)ことがほとんどないことがわかる。そして、没になったネームも見て、マンガ家の試行錯誤の足跡がわかる。尊敬します、これを見ただけでも。マンガ家って、ひとり何役を演じているんでしょうね。
 この展覧会の本は市販されています。

 

 

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 1階には、浦沢作品の各キャラクターのパネルが。

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ケンヂとのツーショット。こんな機会があるならば、もっと着飾ってくればよかったー。

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 お布施もしてきました。でも「おかえり。」のクリアフォルダーとか、ヨハンの目のアップとか、使い途がわからん。とにかく自分で楽しもう。
 最近、浦沢直樹氏はマンガを描くだけでなく、NHKの漫勉とか、この展示とか

www.nhk.or.jp

 で、マンガをメタに見て、啓蒙活動に取り組んでいるように見える。そう思うと2倍3倍に楽しめる展示です。

 今回、浦沢直樹展関連企画「トーク『ひとり漫勉』」に申し込んで、ラッキーにも当たったので行ってきたのですが、このイベントの完成度も素晴らしかった。その話は別エントリーで。

 

 

kasoken.hatenablog.jp

 

 

「ボッティチェッリ展」東京都美術館

 現在、展示中の東京都美術館の「ボッティチェリ展」に行ってきました。

www.tobikan.jp 

 2-3 年前、初めてウフィッツィ美術館で「春(プリマヴェーラ)」と「ヴィーナス誕生」の煌びやかさを見て驚きました。教科書にも載っている絵なので、皆さんご存じでしょう。実物を見た同行していた人たちと「名画にはオーラがあるんですかねえ」と うっとり佇んでいたのですが。

 そして、昨年末、再びこの両作品を見る機会があった。一緒に見ていた人が「こんなすごい画家だったのか(超偉そう)」とのコメントを。たぶん、金の使い方が繊細で上手なのでしょう。印刷するとわからないけど、その使われた金は実物だと光と色の両方で美しく見える。印刷物では光はわからないから。やはり、アウラは印刷物では失われるんですよ……。

 ボッティチェッリメディチ家お抱えだったから、おそらく使っている画材も高価だったのでしょう。

 この展示は最初に、「ラーマ家の東方三博士の礼拝」をどーんと。

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 あれ、今回の展示の見どころだったのでは? その絵を最初に持ってきて良いのかなと余計な心配をしてしまったが、あれは三博士をメディチ家の人になぞらえて描いているから、メディチ家ボッティチェリの関係を表現すのに最高の絵ではある。実際、素晴らしい絵だ。右端にいるのがボッティチェリと言われている。

 そして、このサムネイルにある聖母子像。

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 ボッティチェリならではの美人のマリア様(でも、基本、キリストに対して慈愛を注ぐ表情を描かないらしい)に、アレゴリーの使い方が面白い。幼いキリストが、茨の冠と、釘という将来を暗示させるものを、金で綺麗に描くという。

 あと、学問好きはたぶん「書斎の聖アウグスティヌス」に萌えるかなあと。

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 ボッティチェリのコーナーの前後に、師匠と弟子の絵をはさんでいるんだけど、まあこれはこれで。

 驚いたのは、ボッティチェリサヴォナローラに傾倒したあとのものがまるで魅力を失っているところ。禁欲的な絵なんて、ボッティチェリじゃないよー。サヴォナローラは芸術を破壊したか! と思ったけど、ちょうどパトロンであったメディチ家の衰退の時期と重なっているのね……。

 やはり、貧しさがたたったか。メディチ家の財産あっての、キラキラしたボッティチェリの才能なのでしょうね。
 ちなみに、あの有名な「春」「ヴィーナス誕生」は展示されていません。それでも行く価値はあるかな、と。

 予習としては、今号の『芸術新潮』が優れています。今回、展示されていない作品を含めているし、背景も丁寧に解説してくれている。

芸術新潮 2016年 01 月号 [雑誌]

芸術新潮 2016年 01 月号 [雑誌]

 

  江口寿史氏も、現代の「美人画」「美少女画」の名手ですね。

 

 
 
 

日本経済新聞:書評寄稿『植物は<知性>をもっている』

 日本経済新聞に、書評を寄稿しています。

www.nikkei.com

対象本はこちらです。

植物は<知性>をもっている―20の感覚で思考する生命システム

植物は<知性>をもっている―20の感覚で思考する生命システム

 

  知性を「問題解決をする能力」と捉えるならば、太陽に向かってのびていく枝も、養分を求めてのびる根も「視覚」になる。そして、興味深いのは、人間は脳や肝臓や胃など器官を持っているが、植物は器官が分散している。例えば「目」を枝と根のように分けるなど。
 この分散型知能は、おそらく今後のテクノロジーに大きなヒントになりそうです。

東京工業大学「バイオコン2016」審査員

 年明けになりますが、1月9日に開催される、東工大のバイオコンの審査員を務めさせて頂きます。

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www.bio.titech.ac.jp

 生命理工学部の学部1年生が小中学生を対象にしたバイオに関するテーマで"ものつくり"をする授業「バイオクリエーティブデザイン1」に取り組んできた、成果発表会になるようです。

【日 時】 2016年1月9日(土) 
コンテスト 9:30~ / お試しタイム 14:45~16:15
【場 所】 東京工業大学すずかけ台キャンパスすずかけホール3F多目的ホール
東急田園都市線すずかけ台駅下車徒歩10分)
【主 催】 東京工業大学生命理工学部
【協 賛】 ものつくり教育研究センター

生命理工学部HP] [バイオ創造設計室] [大学HP
【入場料】 無料 
【連絡先】 東京工業大学生命理工学部 バイオ創造設計室

 審査員として、皆様の作品を見ることを楽しみにしています。よろしくお願いします。

眼窩底骨折と手術

 まったくもってみっともないお話ですが、どなたかのお役に立てるかな、と。
 11月22日夜半(STS学会の発表が終わって調子にのった)、飲んでタクシーで帰ったあと、タクシーから家に戻る短い距離で転倒しました。コンクリートの地面に顔から。

 転ぶのはいつものことだから、と次の日はS先生のナビする福島視察に参加させて頂き*1まして。ただ、その間に顔のあざとか目の腫れとかがどんどん進んでいき、雲行きがおかしくなる。

 次の日、顔の擦り傷と内出血がひどかったので、まず皮膚科に行ったら「内出血や擦り傷は治るけど、目の方が心配だねえ」と言われ、その日のうちに近所の眼科へ行くことに。その眼科医の方が、「転倒のときの様子が気になります。うちでは調べる機材がないので、大きな病院へ」と紹介状を渡され、仙台市立病院に行くことになりました。

 仙台市立病院(移転して、驚くほどきれいな病院になっていました)では眼科での各種検査から顔のCTを撮り、形成外科へ回されたところ。「眼窩底骨折ですね」と先生に言われる。骨、折れてましたか。
 どうやら、眼窩底の骨は薄くできてお り、衝撃に対して眼球を守るために、骨の方が先に折れて眼球を守るらしい。人体ってよくできているなーとか思いつつ「うちでも無理なので、東北大病院へ」と紹介状をもらう。

 東北大病院の形成外科で受診したのが12月3日、眼科の一連の検査を受けた後、形成外科の先生に「目の動きは全く異常ないです。手術しなくても問題ないですが、でも手術しなかったら目は3ミリくらい窪みます。どうします? それに、視神経に近いところを手術するので、失明のリスクはゼロではありません」と言われる。
 その准教授の先生は「別に手術しなくても」てな雰囲気だったのですが……「自分で決めなきゃいけないのはわかっています、でも先生だったらどうしますか?」と いうお医者様にとっては厳しい質問をしたら「自分が女性だったら手術しますね。2mmでもくぼんだら見た目にわかりますし、あとで手術したいと思っても組織が癒着してしまうので」というお答えだったので、迷いに迷って(超短時間でしたが)手術を選択しました。

 そしたら、その日に入院、次の日に緊急手術となりました。こちらの手術の希望したあとの、東北大病院の連係プレーは素晴らしかった。終業時間間際でも、手術前の全ての検査を終わらせるように各所手配してくれました。

 そして、次の日、全身麻酔で手術。緊急だったので、30分くらい前にならないと「いつ」になるかわからなかったのですが、15分くらい前に「○時○分に 決まりましたー」と。血圧はかったら上が150超えていて、我ながら緊張体質だと再確認。全身麻酔だと、いわゆるエコノミークラス症候群を防ぐために、着圧ストッキング(膝下の)をはくのですね。

 行きは、自分の足で点滴のあれを持ってごろごろさせながら手術室に向かいましたが、帰りはさすがにそうもいかず。全身麻酔が残っている状態の、意識もうろうのところでCTはかってるなーとか、病室に移動しているなーとかそんな感じでした。

 目の骨だけの手術とはいえ、その目の側の顔全体が痛い。あたり前です、切ってプレート入れているんだから。このプレートは、溶けてカルシウムとして骨の代わりになるプレートです。腰の骨を代用するケースもあるようでしたが、プレートの方を選びました。安全性は腰の骨の利用の方が高いそうですが、医療の進歩の方を信用してみた。

 市立病院では「目立つところ切るので、切開のあと、残りますよ」と言われていたのですが、こちらの東北大病院では目の下から目頭の粘膜から切って手術してくれたので、見た目にはまるでわからない。退院したのは入院から5日目なのですが、その日からメイクもOK、まつげのエクステンションとかつけまつげも問題ないですよーと執刀医の先生(執刀医の方は「助手」という立場だったみたい。新進気鋭の立ち位置だ)に言われる。ただ、その後のコンタクトレンズの使用は、退院後の診断で「まだ待って下さい」との指示がありました。

 この愚かな転倒のおかげで、ある東京でのシンポジウムのファシリテーターのお仕事をキャンセルしてしまいました。本当に申し訳ないです。「ニコニコ学会β」も無理かな……と思って、代役に誰を立てるかとか考えていたのですが、なんとか皆様のお助けを得ながら、関わることができました。ありがとうございます*2

 あとのお仕事は、なんとか穴を空けずに済んでいますが、ご迷惑をおかけしている可能性、大。申し訳ありません。自分が目を使う仕事だったんだなと痛感しました(仕事のスピードがさらに遅くなっている)。

 眼窩底骨折は、スポーツをする方でも多いそうです。あとは交通事故とか(自転車からでの転倒でも)。どうかお気をつけ下さい。

 ただ、今回思ったのは。手術等に関係すると、「選択」をしなければならない場面がこれほど多いのか、と。私は仙台にいて高度医療施設が集中しているところでラッキーだったと思う一方、そうでない地域だとこんなにスムーズに連携できるか? とも考えさせられました。あと、都心だと病院が多いから「どの医師に執刀をお願いするか、どの病院にお願いするか」という別方向の悩みも発生しますね。

*1:本当に勉強になりました……あの「普通ではないところ」は現場を見ないとわかりません。宮城の被災地とはまた違って「複合災害とはこういうことか」と身をもってわかる。S先生、ありがとうございました。

*2:この日だけ、コンタクトレンズ使ってしまいました。