内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

ブログというかお仕事日記というか身辺雑記というか。

毎日新聞『魅了されたニューロン:脳と音楽をめぐる対話』書評寄稿

 毎日新聞の「今週の本棚」欄に、書評を寄稿しています。

今週の本棚:内田麻理香・評 『魅了されたニューロン…』=P・ブーレーズ、J=P・シャンジュー、P・マヌリ著 - 毎日新聞

  現代作曲家であり指揮者のブーレーズ神経科学者のシャンジュー、作曲家のマヌリというメンバーが揃った豪華な鼎談です。

魅了されたニューロン: 脳と音楽をめぐる対話

魅了されたニューロン: 脳と音楽をめぐる対話

 

  異分野同士の専門家の対談や鼎談は、それだけで企画として面白いものの、蓋を開けてみると、そのお題に対して表面をなぞったコメントを寄せるだけで終わってしまうものが少なくないですが。そんな心配はご無用の、見事な音楽と科学の融合を果たした刺激的な鼎談になっています。なにしろ、ブーレーズは科学的視点を取り入れて、新しい音楽制作の展開を目的とするフランス国立音響音楽研究所(IRCAM)を組織した人物で、理詰めで現代音楽を作り続けた巨匠。シャンジューは単なる音楽好きの科学者ではなく、一時期、作曲を習っていたこともある筋金入り。そこに、IRCAMの活動に早い時期から関わり、ブーレーズと父子的な関係を築いているマヌリが加わっているという布陣。

 これがフランスの教養人というあり方なんでしょうか。3人とも音楽と科学以外の教養も深く、哲学や美学の話がバンバン登場します。それだけに、読み進めるのはハードではあります。でも、それがまた衒学的というわけではなく、それぞれの話題が意味を成している。知的にも感情的にも揺さぶられる、楽しい読書体験でした。

 印象的な箇所は多いですが、個人的には「報酬」、「報酬の先取り」に関わる話が面白かったでしょうか。音楽の創造をする者は報酬に導かれ、そして音楽を聴く者は報酬や報酬の先取りによって楽しむ、という。

 ぜひ読んで頂きたい一冊です。

日本経済新聞『ラボ・ガール』書評寄稿

 日本経済新聞に書評を寄稿しています。

www.nikkei.com

 対象本はこちらです。

ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語

ラボ・ガール 植物と研究を愛した女性科学者の物語

 

  「いわゆる理系女性の自伝本ね……」というノリで読み始めたのですが(すみません!)、これが良い方向に予想を裏切られまして。著者のキャラクターも魅力的、文章も巧み。『赤毛のアン』のような物語を連想させる作品でした。著者が専門とする植物に関する挿話も楽しい。新たなジャンルの物語を開拓したのでは?

 『赤毛のアン』にせよ、『若草物語』にせよ、当時としては珍しい"職業婦人"(あえてこの言葉を使ってみる)が、自らの体験をもとに作られた小説ですよね。著者、ヤーレンのチャーミングで、ある意味めんどうくさそうなキャラが本の中で七転八倒する様子は、読者として応援したくなります。そして、さわやかな読後感。

 全米でベストセラーになり、数々の賞を受賞したのも納得の作品です。この手の「面白いから読んで!」的な作品を書評したり紹介するのって難しいですね……。自分の力のなさを、つくづく感じました。とにかく、全力でおすすめです。

毎日新聞『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』寄稿

 毎日新聞に書評を寄稿しています。

今週の本棚:内田麻理香・評 『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』 川添愛・著、花松あゆみ・絵 - 毎日新聞

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット  人工知能から考える「人と言葉」

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」

 

  イタチが主人公の可愛いおとぎ話、きれいな装丁とイラスト、ユーモラスな筆致。なまけものでありながら(だからこそ)魅力的なイタチたちの言動に引きこまれて、すらすら読めますが、「人工知能にはなぜ私たちが使う自然言語処理が難しいか」が説明されているというお得な本。おすすめです。中学高校生にもぜひ!

 本書は寓話仕立てで、機械による自然言語処理を説明するサイエンスライティング本の範疇に入るのでしょうが、このような形式の場合、肝心の物語が面白くないと興ざめですし、実際そのような解説書、啓蒙書は少なくない(ただマンガにしただけとか。いや、これ自分にもブーメランが飛んでくることは承知の上で……)。こちら本の場合は、サイエンスの啓蒙書という要素を取り払っても、ひとつの作品として完成度が高い。

 言語学者である著者の川添愛さんは、過去に

精霊の箱 上: チューリングマシンをめぐる冒険

精霊の箱 上: チューリングマシンをめぐる冒険

 

 

 などを著しています。こちらは、ファンタジー小説という体裁で言語学を扱っています。作家としての川添さんの今後の作品も楽しみです。

毎日新聞『ユリイカ』7月号 雑誌評

 毎日新聞に『ユリイカ』2017年7月号のマガジン評を寄稿しています。

 棋士を引退したばかりの加藤一二三九段、「ひふみん」特集。私がかつてなりたかった職業が女流棋士で、家で将棋教室を開いていた父に憧れたものの、その父に匙を投げられ今に至ります……。 そんな私も、藤井聡太四段の快進撃による昨今の将棋ブームにのって、ネットで詰将棋などしています。

 数々の歴史を塗り替えた天才、加藤一二三を知ると今の将棋もさらに面白い。ひふみんの歴史を追うことは、昭和の将棋の歴史をなぞることになるんですね。

『中央公論』8月号 掲載

 『中央公論』8月号の特集「日本語は生き残るか」の「英語を勉強しなくてもいい時代がやってくる?」、隅田英一郎氏の聞き手をつとめました。

中央公論 2017年 08 月号 [雑誌]

中央公論 2017年 08 月号 [雑誌]

 

  機械翻訳の第1世代、第2世代、そして人工知能ディープラーニングを利用したいまの第3世代。今のGoogle翻訳、驚くような精度で翻訳できるようになりましたよね。その変遷を、それぞれの仕組みとともに伺いました。隅田さんの説明、非常に明快でわかりやすい。

 2020年の東京オリンピックに照準をあわせ、おそらく私たちが予想している以上に機械翻訳が進歩を遂げていることに驚くかと思います。「英語を勉強しなくてもいい時代がやってくる?」の答えは本誌にて。簡単な翻訳は人工知能に任せ、その労力をより生産的な方向に使える日は目の前のようです。

毎日新聞『星界の報告』書評

 毎日新聞の「今週の本棚」欄に、ガリレオ・ガリレイの『星界の報告』の書評を寄稿しています。

今週の本棚:内田麻理香・評 『星界の報告』=ガリレオ・ガリレイ著 毎日新聞

  既に岩波文庫から邦訳が出ていますが、こちらはガリレオ研究の第一人者である伊藤和行氏の訳および解説です。図版も初版通りの形で掲載されていて、現時点での邦訳決定版と言えるでしょう。

 伊藤さんのこちらの本も、時代の背景を知るために副読本として必須。一緒に読むと、それぞれの本をより堪能できます。

  『星界の報告』といえば、400年前に著された古典中の古典。17世紀科学革命の息吹を現代においても感じられます。ガリレオは他の著作でも優れたものを残していますが、この『星界の報告』からはガリレオ自身の興奮と喜びが伝わってきます。

母校、渋谷教育学園幕張で講演会

 母校、渋谷幕張の保護者向け講演会のお仕事でした。このような機会に呼んで頂くのはありがたいことです。講演のタイトルは「『自調自考』の学びから、学びを伝える仕事へ」。渋幕の「自調自考」の教えは、様々なメディアで伝えられているかと思いますが、中高一貫の2期生の私でも、根幹を成すものだな、と未だに折に触れ感じています。

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 講演会を企画された現・保護者さまから、花束を頂きました。ありがとうございます! 

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 大きなバラの花束、幸せになりますね。

 出張で残念ながらお目にかかれなかった、中学1年のときの担任、N先生から渋幕の外観が描かれた絵のプレゼントが!

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 これも嬉しいです。6年間、この風景見ていたなと思うと、感無量。

 そして、講演の前に、校長の田村哲夫先生が私の紹介をして下さったのですが「内田さんが事務室の前で泣いていて、どうしたのと声をかけたら……」と、私も忘れ去っていた黒歴史までお話しされるとは。泣いた理由は模試の成績が上がらないというものだったらしい。それで泣くのか……高校生のわたし……。そういえば、そんなことありましたね。

 お仕事のあとは、生物の先生が長々と私のお相手して下さって(話題尽きず)、これも楽しかったです。在校生だった頃から知っていてくださる先生方がいるというのも幸せですね。

 夜は、海浜幕張で11名の渋幕の同級生と飲み。久しぶりだったにも関わらず、ブランクをまるで感じず盛り上がれるのは6年間一緒だったからかな? この年になっても、というのも幸せなことで。