国立マリオネット劇場
プラハでのオペラ3日連続鑑賞の最終日は、マリオネットでの「ドン・ジョバンニ」。
National Marionette Theatre – About Us
チェコといえばマリオネット。マリオネットでオペラを演じるのはどんなものか、と興味津々で国立マリオネット劇場へ。
この劇場は、オーストリア=ハンガリー帝国の支配下で、チェコ語の使用を禁止されていた時代に、唯一チェコ語を使って上演することが許されていたのがマリオネット劇だったとか。
こぢんまりとした劇場ながら、歴史を感じさせます。チケットを予約していなかったので早めに行きましたが、上演時には満席。9月に入ってハイシーズンを過ぎていたから予約なしでも大丈夫だったのかもしれませんが、予約していた方が安心かもしれません。
実は、正直それほど期待していなかったのですが、クオリティの高さに驚きました。子供も楽しめるコメディ演出にしているのですが、大人も唸る人形遣いの技。2時間は長いのでは? と思っていましたがあっという間。
【動画】クリックすると再生されます(注:音も出ます)。
人形遣いの人たちの、複数人の息の合った連係プレイもすごい。どの紐をどう動かしたらこんな動きになるんだ? と色々考えながらだから観ているだけでも忙しい&頭使う。上から人が動かすマリオネット、人形遣いの手の動きも含めて鑑賞に値します。
そして、終盤に登場する石像になった騎士長がなんとゴーレム*1(ユダヤ教の言い伝えにある動く泥人形)! ゴーレムはマリオネットではなく、人が入った着ぐるみです。
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チェコならではの演出だなあと。この国立マリオネット劇場もユダヤ人地区の近くにありますし。
「ドン・ジョバンニ」の騎士長といえば、映画にもなった「アマデウス」のピーター・シェーファーの脚本にある「モーツァルトの亡くなったお父さん説」に、これまで頭が占められていましたが、この解釈はなるほどねえと唸る。
マリオネット劇、チェコならではの素晴らしい文化ですね。何らかの制約があると、あるものが突出して発展する典型の一つかもしれません。
そして、思わず藤田和日郎氏の『からくりサーカス』の白銀と白金のプラハでのこの場面が頭に浮かんでしまいました。
チェコのマリオネット文化に、すっかり夢中です。
*1:チェコのユダヤ人街で特にゴーレム伝説が有名な話は、黄金のプラハ―幻想と現実の錬金術 (平凡社選書)
に詳しいです。
ヴルトボヴスカー庭園 (Vrtba Garden; Vrtbovská zahrada)
プラハに宿泊した二つ目のホテルが、Aria Hotel。こちらは、数あるプラハの庭園の中でも最も美しいと言われている(らしい)ヴルトボフスカー庭園(Vrtba Garden; Vrtbovská zahrada)に直結しているのも特徴。宿泊客は無料で入ることができます(夏期のみ)。
ホテルから外に通じるドアを開けたら、こんな風景が広がっているんですから。ホテル宿泊客だけではなく、外部からも入園料を支払えば入ることができます。
庭にある階段を上っていくと……
プラハのマラー・ストラナ地区の景色を一望することができます。
これは聖ミクラーシュ教会ですね(何度も外からは見たのですが、結局中に入る時間はなく……残念)。
このアリア・ホテル、ウェブサイトを見ると結婚式プランも充実していて、私たちがいたときにも2組の新郎新婦が写真&ビデオ撮影をしていました。
ここで結婚式をするみたい。
ここのレストランでの披露宴もできるようですし、予定のある方いらっしゃったらお勧めしたい!
花も美しい。これだけの庭園、維持するのは手間がかかるでしょうね。
天気が良く、いい時期に訪れることができてラッキーでした。
チェコ国立博物館
プラハのヴァーツラフ広場といえば、プラハの春やビロード革命の舞台となった場所。そのヴァーツラフ広場の端に、国立博物館があります。
この国立博物館、チェコ最大の総合博物館で、本館は19世紀末に建造されたルネサンス様式の建築物で国の文化財にも指定……なのですが、2018年まで全面改装工事中。
残念。でも、プラハの街を歩いていると、工事中のところだらけです。建造物も、石畳も。この各種様式の建造物が大事に残されていることが、プラハという街の価値であることが理解されているのだと思われます。
お向かいにある新館は見ることができます。
新館では"Noah's Ark" (ノアの箱舟)という企画展示をしていたので、それを見てきました。
www.nm.cz 歴史のある国の博物館で見られる「これでもか、と物量で圧倒させる」という展示*1かなと思いきや、教育的かつ学術的、しかも配置等も工夫が感じられる勉強になる展示でした。ただ、これは長期間とはいえ企画展ですし、本館を見ていないので、これだけでチェコの国立博物館を語ることはできないのですが。
「ノアの箱舟」というテーマに沿って、生物多様性、種の保存について展示しているのですが、小難しくならずにわかりやすい。何よりも、大量の剥製が並んでいるのが圧巻です。
写真を撮っても良かったらしいと後で気付き……ウェブサイトの写真をお借りします。
どこからこんなに大量の剥製を集めてきたんだろう。学術目的か、それともかつての富裕層が収集してきたものか*2? それぞれの種の動物が、とっておきの決めポーズでこちらをを見据えている様はひたすら格好いいし、恐ろしいほどの迫力。とまあ、剥製だけを眺めているだけでも楽しいのですが、それぞれの剥製に、その生物の説明と共に、国際自然保護連合(IUCN)レッドリストのカテゴリも表示されていている。そのレッドリストのカテゴリの違いも、最初に丁寧な説明があるのですが、忘れそうになる頃に随時簡単な説明が置いてあるという心遣い。
イケ動物の剥製をただ並べているだけでなく、地域ごとに別れており、外来種の説明も入る。そして、チェコ近郊で行われている種の保存活動の解説もある。
パネルの説明もわかりやすくて良いんですよね。
これなんて、地球の歴史とともに、どの時代にその種が繁栄したか(そしていつ絶滅したか)が一覧でよくわかる。このポスター欲しい(と思ったけど、売ってなかった)。
このように、大人も子供も楽しめる質の高い展示が期間限定とは勿体ないです。もし機会があったら、修復後の本館も、他の企画展も見てみたいです。
オペラ観劇:「フィガロの結婚」@エステート劇場
プラハのオペラ観劇2日目。今日は、スタヴォスフケー劇場(エステート劇場, Stavovské deivadilo; Estates Theatre)で「フィガロの結婚」です。
この劇場はとにかくW. A. モーツァルトとの関わりが深く、当時ウィーンではそれほど評判が高くなかった「フィガロの結婚」もこの劇場で上演したところ大評判、そして「ドン・ジョヴァンニ」の初演の場したことで有名。さらに、ミロス・フォアマンの映画『アマデウス』でオペラの場面を撮影した劇場として、もっと有名かもしれません。
というわけで、劇場に入るなり『アマデウス』の世界だー! と楽しめます。フォアマン監督はチェコ人ということもあり、『アマデウス』の収録がプラハだったので、プラハの街全体が『アマデウス』の世界でもあるのですが、ここは特に。
劇場……美しいです。
オーケストラピットの前。こぢんまりとした劇場なので、オーケストラも小さい編成でした。でも、舞台との距離も近いので、十二分な迫力。
今回、ボックス席だったのですが、この劇場のボックス席良いです! まさに「プライベート空間」なのでくつろぎながらオペラを楽しめる。また、
でも書いたとおり、プラハの地元の人たちはドレスアップしつつも、リラックスして気軽にオペラを楽しんでいるので、その居心地の良さも含めて満足の時間でした。
このモーツァルトに縁のある劇場で、「フィガロ」を観るのですから、ベタな選択です。観光客の方*1が多かったのも、同じような選択をするからでしょうか。
オーソドックスな演出ながら、いかにも「フィガロ」という愉快さを存分に堪能できました。
「フィガロの結婚」ついでにご紹介したい映像がこちら。
- アーティスト: ダルカンジェロ(イルデブランド),ネトレプコ(アンナ),スコウフス(ボー),レシュマン(ドロテーア),シェーファー(クリスティーネ),ウィーン国立歌劇場合唱団
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生誕250年モーツァルトイヤー、ザルツブルク音楽祭2006にて上演されたクラウス・グート演出による「フィガロの結婚」が収録されています。演出が斬新すぎます。モーツァルトならではの多幸感はまるでなし。おどろおどろしい演出ではありますが、歌手陣もオーケストラも素晴らしい。このオペラの脚本は、本来、上流階級を揶揄した「危険な作品」で、ウィーンで上演打ち切りになったのもよーくわかります。現代でも十分通じる皮肉、そしてドロドロした人間模様……オーソドックスな「フィガロ」と比較して観ると、なおさら楽しめるかと思います。
*1:地元の人よりもかなりカジュアルな格好でいらしていました。
プラハ土産:ボヘミアンガーネット
相変わらず異国に行くと、散在してしまうのですが。今回、ボヘミアンガーネットのアクセサリーも入手。どうやら、チェコで採掘されるガーネットは良質らしく、さらにガーネットの細工技術は、ボヘミアングラスにも継承されたとか。
ボヘミアンガーネットは16世紀より産出され、17世紀には、ルドルフ2世の保護を受け、美しいボヘミアン・カットや石を爪だけで止める高度な技術が完成されたのです。
ボヘミアンガーネットの歴史。チェコの土地に受け継がれるアクセサリー
ここにもルドルフ2世の名前が。チェコの芸術や科学絡みの話になると、決まって名前が出てきますねえ。
ただ、最近は産出量も減って、ボヘミアンガーネット(チェコガーネット)は "Granát Turnov" という会社が独占販売しているとか。街中のお土産屋さんにもガーネットのアクセサリーはたくさん売られていますが、偽物も多いらしいので、そのお店に出向きました。
Bohemian Garnet - The cooperative Granát Turnov
ショーケースに並べられたアクセサリーはどれも繊細で美しい……。あれもこれも! と興奮してしまいましたが、心を落ち着かせて2点に抑えました。それでも、予定の3倍のお値段を使ってしまいました。いや、後悔はしていない!
こちらはブローチ。
これだけで止めておくつもりが、ついネックレスも。
ああ、ピアスも欲しかったなあ……(そっちの意味では後悔している)。ガーネットものは初めてで、しかもボヘミアンガーネットを手に入れることができたのは嬉しい。石言葉は、「永遠の愛」「真実」「情熱」「勝利」などなど……らしいです。
オペラ観劇:「売られた花嫁」@プラハ国民劇場
プラハはオペラのチケットがお得です。いちばん良い席でも、日本円で5,000円強。これは行かねば損! ということで、二晩続けてオペラを観に行くことにしました。
なんとも壮麗な劇場で、ため息が出てしまいます。これは19世紀に「チェコ語による、チェコ人のための舞台」を求めて、国民らの寄付によって建設された劇場です。ただ、オープン数年後で火災に遭い、再び寄付を集めて再建されたといいます。チェコ人の想いがこもった劇場といえるでしょう(このような建築物、芸術作品がチェコには多い)。
国民劇場では、毎日のようにオペラだけでなく、バレエ、現代劇などが上演されています。今回、観に行ったのは、チェコを代表する作曲家であるベルジドハ・スメタナの「売られた花嫁」。この作品も、チェコ語で書かれたチェコ国民を代表するオペラで、スメタナが民族音楽を取り入れつつも、ロマン派音楽の技法を沿って作り、ヨーロッパにチェコ音楽の存在感を示した作品になります。せっかく、チェコに来たのだからチェコらしいオペラを! ということでこの作品にしました。
「売られた花嫁」は、序曲は聞いたことがある方が多いと思われる有名な曲ですが、オペラ全体は未見。というわけで、事前に予習しておきました。
- アーティスト: ズデニェク・コシュラー(指)チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、プラハ・フィルハーモニー合唱団、プラハ国立歌劇場合唱団/映像監督:フランティシェク・フリップ/ガブリエラ・ベニャチコヴァー(S マジェンカ)
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(注:日本語字幕はありません)
で、DVDを観ながら感じたのは。コメディなんだろうけど、ストーリーが現代人の感覚で見ると「えええ」と思うところ多し。恋人イェニークに売られるヒロイン、マジェンカは、最終的にはハッピーエンドを迎えて終わるのですが、花嫁(ヒロイン)が結婚させられそうになる相手、ヴァシェクが知的障害者という設定。その彼の扱いがひどい。知恵で二人の愛の成就を! ということなんだけど、主役二人のする策略がねえ……。善良な好青年であるヴァシェクの魅力がむしろ際だってくるという。
第2幕の冒頭の酒場の場面も、男性たちが「酒は憂さを晴らす、勇気を与えてくれる、最高」とばかりに高らかに歌っているのですが(で、女性たちが見守っている)、現在クローズアップされつつあるアルコールの諸問題を考えるとどうよ? とも思ってしまうし。その歌は依存症になっていく人、なってしまった人の常套句でしょう。これは現代では受け入れられるのが難しいオペラなのかな? だからこそ日本でも上演されることが希なのかな? と。
国民的オペラなんだけど、この国民劇場でどう演じられるのか? と少々の不安を持って見始めたのですが、良い意味で予想は裏切られました。舞台のセットは現代的ながらも、登場人物の衣装は民族衣装という対比も良い。悪巧みをする結婚仲介人を冒頭からこれでもか、とコメディ演出でおちょくる。知的障害者のヴァシェクは、モテモテのイケメン設定(元のストーリーから考えても、モテておかしくない性格だしねー)。そして主役のふたりのずる賢さが逆に強調されるという。ダメ主人公たちで良いのかとは思いつつも、爽快。
その第2幕の酒場の場面の演出も笑えます。4組の男女のダンサーたちが「酒飲み男を女が懲らしめる」という振り付けになっている。
第3幕のサーカスの場面も素晴らしかった。サーカスのメンバーが踊っているところ、半分人形だったのは当初気がつきませんでした。ダンサーが人形らしく踊っている上に、人形の動きがまるで人間みたいなのです。そのダンサーと人形がアクロバティックな演技をするのは、ただただ驚き。さすが、マリオネットの国でもあります。そのサーカス団の一部が、突然、客席のボックス席から登場する演出も良い。
オペラは脚本や音楽がそのままでも、その他の演出でいかようにも魅せ方をアレンジして変えることができるのだな、という好例でした(オペラに限らないけど)。チェコの総合的な文化度の高さに圧倒されました。もともとの脚本は古いけど、このような演出ごと日本に持ってきたら、日本でも人気出るんじゃないかな。
チェコの文化度の高さといえば、オペラに来ているお客さんたちの様子でもわかります。おそらくオペラの敷居が低い。この国民劇場に来ている人たちはオペラ慣れしていて、皆さんそれぞれドレスアップしていながらも、リラックスしている(ほとんど地元の人たちと思われる)。そして、笑う場面では遠慮なく楽しそうに声を上げて笑う。映画を見ているような感じです。この劇場の雰囲気は、張り詰めたような様子のウィーンのオペラ座とかなり違いますね。
チェコならではの文化度の奥深さを堪能することができた劇場、オペラでした。
レストラン " Terasa U Zlaté studně"
プラハで最初に宿泊したホテル Golden Well Hotel にあるレストラン Terasa U Zlaté studně でディナー。
このホテル自体がプラハ城のすぐ近くにあるため、このレストランの眺めは最高。風景も美味しさを構成するひとつですね。
日没の時間が遅いので、この明るさから夕暮れ、夜景へと至る時間もすてきでした。
このレストランのシェフは、プラハ No.1 と言われるシェフ、Pavel Sapík 氏。なんでも、7世代続く料理人一家の出身だとか。意外性がありつつも、洗練されたお料理の数々を堪能しました。
まずは前菜。チェコ料理は野菜が少ない、と聞いていましたが、これらに限らず濃厚な味の野菜が活かされていました。
ロブスター。パッションフルーツのソースが合うのでびっくり。
フォアグラのテリーヌ。岩塩とベリーで濃厚さとさわやかさが最高のバランス。フォアグラという食材をそれほど良いと思ったことがなかったのですが、このテリーヌとこの組み合わせは初めて「おいしい!」と。
キノコのスープ。この少量ながらもどっしりしたスープ、スパイスが効いていて、ほんのり甘味もあり。
そろそろデザートかな? と思ったところにメインの肉料理。この鴨、鴨のはずなんだけど臭みがまるでない。さすが肉料理の国、肉の処理の仕方とか違うのでしょうか。これも岩塩が効いています。
見た目はなんてことのないシャーベットなのですが、パッションフルーツの味のあとに、ジンジャーの後味がしてこれまた驚き。甘いのに辛い! それなのにおいしい!
このデザートプレートは、全体でエスニック。タピオカとココナッツミルクのデザートを、組み立て直したような一皿でした。チョコレートソースもあるのに邪魔していない、しっかり調和している。
コーヒーをいただきながら、プチフール。見た目も可愛らしいですが、一つ一つがまた意外な味。奥のマカロンはハーブの味がするし、手前のトリュフもスパイスの味ががつんとして、ただ甘いだけじゃない。
チェコ料理か、と言われるとわからないけど(でも、キノコの濃厚スープとか、とにかく美味しいお肉とかはそれらしいのかな?)、意外性に満ちた料理ばかりで、驚きながらも楽しみました。でも、どれもこれも予想外な組み合わせなのに、しっかり調和しているのが素晴らしい。
もしプラハにいらっしゃる方がいたら、全力でお勧め。予約は必須のようです。