内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

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オペラ観劇:「売られた花嫁」@プラハ国民劇場

 プラハはオペラのチケットがお得です。いちばん良い席でも、日本円で5,000円強。これは行かねば損! ということで、二晩続けてオペラを観に行くことにしました。

 一日目は、国民劇場でスメタナの「売られた花嫁」を。

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 なんとも壮麗な劇場で、ため息が出てしまいます。これは19世紀に「チェコ語による、チェコ人のための舞台」を求めて、国民らの寄付によって建設された劇場です。ただ、オープン数年後で火災に遭い、再び寄付を集めて再建されたといいます。チェコ人の想いがこもった劇場といえるでしょう(このような建築物、芸術作品がチェコには多い)。

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 国民劇場では、毎日のようにオペラだけでなく、バレエ、現代劇などが上演されています。今回、観に行ったのは、チェコを代表する作曲家であるベルジドハ・スメタナの「売られた花嫁」。この作品も、チェコ語で書かれたチェコ国民を代表するオペラで、スメタナ民族音楽を取り入れつつも、ロマン派音楽の技法を沿って作り、ヨーロッパにチェコ音楽の存在感を示した作品になります。せっかく、チェコに来たのだからチェコらしいオペラを! ということでこの作品にしました。

 「売られた花嫁」は、序曲は聞いたことがある方が多いと思われる有名な曲ですが、オペラ全体は未見。というわけで、事前に予習しておきました。

スメタナ:「売られた花嫁」 (1DVD)

スメタナ:「売られた花嫁」 (1DVD)

 

 (注:日本語字幕はありません)

 で、DVDを観ながら感じたのは。コメディなんだろうけど、ストーリーが現代人の感覚で見ると「えええ」と思うところ多し。恋人イェニークに売られるヒロイン、マジェンカは、最終的にはハッピーエンドを迎えて終わるのですが、花嫁(ヒロイン)が結婚させられそうになる相手、ヴァシェクが知的障害者という設定。その彼の扱いがひどい。知恵で二人の愛の成就を! ということなんだけど、主役二人のする策略がねえ……。善良な好青年であるヴァシェクの魅力がむしろ際だってくるという。

 第2幕の冒頭の酒場の場面も、男性たちが「酒は憂さを晴らす、勇気を与えてくれる、最高」とばかりに高らかに歌っているのですが(で、女性たちが見守っている)、現在クローズアップされつつあるアルコールの諸問題を考えるとどうよ? とも思ってしまうし。その歌は依存症になっていく人、なってしまった人の常套句でしょう。これは現代では受け入れられるのが難しいオペラなのかな? だからこそ日本でも上演されることが希なのかな? と。

 国民的オペラなんだけど、この国民劇場でどう演じられるのか? と少々の不安を持って見始めたのですが、良い意味で予想は裏切られました。舞台のセットは現代的ながらも、登場人物の衣装は民族衣装という対比も良い。悪巧みをする結婚仲介人を冒頭からこれでもか、とコメディ演出でおちょくる。知的障害者のヴァシェクは、モテモテのイケメン設定(元のストーリーから考えても、モテておかしくない性格だしねー)。そして主役のふたりのずる賢さが逆に強調されるという。ダメ主人公たちで良いのかとは思いつつも、爽快。

 その第2幕の酒場の場面の演出も笑えます。4組の男女のダンサーたちが「酒飲み男を女が懲らしめる」という振り付けになっている。

 第3幕のサーカスの場面も素晴らしかった。サーカスのメンバーが踊っているところ、半分人形だったのは当初気がつきませんでした。ダンサーが人形らしく踊っている上に、人形の動きがまるで人間みたいなのです。そのダンサーと人形がアクロバティックな演技をするのは、ただただ驚き。さすが、マリオネットの国でもあります。そのサーカス団の一部が、突然、客席のボックス席から登場する演出も良い。

 オペラは脚本や音楽がそのままでも、その他の演出でいかようにも魅せ方をアレンジして変えることができるのだな、という好例でした(オペラに限らないけど)。チェコの総合的な文化度の高さに圧倒されました。もともとの脚本は古いけど、このような演出ごと日本に持ってきたら、日本でも人気出るんじゃないかな。

 チェコの文化度の高さといえば、オペラに来ているお客さんたちの様子でもわかります。おそらくオペラの敷居が低い。この国民劇場に来ている人たちはオペラ慣れしていて、皆さんそれぞれドレスアップしていながらも、リラックスしている(ほとんど地元の人たちと思われる)。そして、笑う場面では遠慮なく楽しそうに声を上げて笑う。映画を見ているような感じです。この劇場の雰囲気は、張り詰めたような様子のウィーンのオペラ座とかなり違いますね。

 チェコならではの文化度の奥深さを堪能することができた劇場、オペラでした。