内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

ブログというかお仕事日記というか身辺雑記というか。

朝日新聞・オピニオン欄(論×論×論)掲載

digital.asahi.com 朝日新聞のオピニオン欄(論×論×論)で、記事が掲載されています。このコーナーは、論壇委員が各々が担当する分野(私の場合は、科学技術)で注目した論考ひとつを選び、それについて論じたものを、朝日新聞の担当記者さんが書いて下さるという形になっております。

 私の選んだ論考は、以下になります。

president.jp

男脳・女脳という分類に根拠はないが、全く差がないというわけではなく、現時点でその差はよくわからない――。そんななんとも腑(ふ)に落ちない、もやもやした状態にあるのが現在の脳科学だ。だからこそ、わからなさに無理やり白黒つけないことの大切さを説く姿勢に、研究者としての誠実さを感じた。

 

朝日新聞「論壇委員が選ぶ今月の3点」5月

 朝日新聞の論壇時評の欄で、「論壇委員が選ぶ今月の3点」が掲載されました。

digital.asahi.com

私が選んだ〈科学技術〉の3点は以下の通りです。メモとともに紹介します。

柘植あづみ「ささやかな欲望を支える選択と責任」『思想』5月 

  特集は「生殖/子ども」。これは、卵子提供(他人の卵子を提供してもらい、自分のパートナーの精子体外受精させ、受精卵が発達してできた胚を自分の子宮に入れて妊娠を試みること)で子どもを持った女性たちへのインタビューをもとにした論考だ。子どもを持ちたい、という人びとへの切実な欲求をかなえるため、代理母、AID(非配偶者間人工授精)など、さまざまな技術が、法整備が整わない状況のうちに利用されている。例えば、卵子ドナーを選ぶことそのものも倫理的問題を抱えている。本論考は、当事者たちがその行為を正当化する様子、そして子どもに真実を話すことをめぐる悩みなど、生殖医療技術の抱える諸問題を浮き彫りにしている。

 この論考では触れられていないが、今後は卵子提供で生まれた子が、法律上の親子問題に直面すること、既に問題視されている嫡出AID子が抱えるアイデンティティを巡る苦悩などの課題も生じうるだろう(『科学の不定性と社会』 (本堂ほか 2017) 参照 )。

 

科学の不定性と社会―現代の科学リテラシー

科学の不定性と社会―現代の科学リテラシー

 

 

生殖医療技術に限らず、社会に受容される(されてしまう)科学技術を考える際の、大きな問いとなっている。

細田千尋「「男脳」「女脳」は存在しない"女は数学が苦手"は科学的に間違いである」『PRESIDENT WOMEN』2019年5月13日

president.jp

 認知神経科学者である著者が、「「男脳」「女脳」の観点でものを見ること」は、社会的にも科学的にも間違っていると指摘する。「女は数学が苦手」という、ステレオタイプ脅威、そしてジェンダーギャップ指数が、トップレベルで活躍する女性の数が少ない結果をもたらすとする。 「男脳」「女脳」で語る「ニューロセクシズム(神経性差別)」の問題は、

「妻のトリセツが説く脳の性差 東大准教授は「根拠薄い」」『朝日新聞』2019年4月7日

digital.asahi.com

でも取り上げられている。

 この手の言説の根拠となる科学研究は否定されたり、その再現性が疑われていたりするものが多い。また、科学そのものが「男女差はある」という思い込みを持って研究が進められ、性差別の助長に加担してきたという研究もある(アンジェラ・サイニー著、東郷えりか・訳 『科学の女性差別とたたかう』作品社(2019))。

 

kasoken.hatenablog.jp

  現時点の科学で「脳には男女差が存在しない」との結論を出すことはできない。しかし、あったとしても世間で流布している「科学『らしい』解説」は、脳の性差を強調し過ぎており、その思い込みが現実のジェンダーギャップを生んでいると考えられる。

梶田隆章・緑慎也「このままなら「科学技術立国」は崩壊する 「選択と集中」の競争主義が研究をダメにする」『文藝春秋』6月号

 ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章を、科学ジャーナリストである緑慎也が取材した。運営費交付金を削減し、競争的資金で充填する方針を打ち立てて大学を運営してきた政策は、日本の科学技術のみならず、学術全体を先細りさせた。学術論文の量と質の低下、若手研究者の困窮(高学歴ワーキングプアなど)の原因にもなっている。既にその問題は各所で言い尽くされている。しかし、いまだに「選択と集中」の政策が採用し続けられる状況下、データも交えその問題点を列挙した、この包括的な記事には価値があると考える。

毎日新聞「今週の本棚」『科学の女性差別とたたかう』書評寄稿

mainichi.jp 毎日新聞の書評欄、「今週の本棚」に『科学の女性差別とたたかう』の書評を寄稿しています。

 

科学の女性差別とたたかう: 脳科学から人類の進化史まで

科学の女性差別とたたかう: 脳科学から人類の進化史まで

 

  科学研究が性差を強調する結果を重視するあまり、その科学的知見そのものが、偏見をもたらしてきたのでは、と指摘した上で、「性差の神話」の解体を試みる書です。

 科学は偏見や思い込みから自由であり、「客観的なもの」と考える人こそ、一読の価値があると思っております。

 本書にも登場するニューロセクシズム(神経性差別主義)の問題は、以下の記事でも解説されています

digital.asahi.com

朝日新聞「論壇委員が選ぶ今月の3点」

 朝日新聞の論壇時評の欄で、「論壇委員が選ぶ今月の3点」が掲載されました。

digital.asahi.com

 私が選んだ〈科学技術〉の3点は以下の通りです。メモとともに紹介します。

黒川眞一・谷本溶「インテグリティの失われた被曝評価論文:宮崎早野第二論文批判」『科学』4月号

岩波『科学』の特集「ゆがむ被曝評価」の第3弾。特設サイトは以下。

雑誌『科学』 「ゆがむ被曝評価」特設サイト

 2月号では研究上の倫理的問題が、3月号では第1論文への批判が扱われた。第2論文は「除染には、個人線量低減効果があるとは明確にいえない」という結果が出されている。

 東大、伊達市の調査の結果等を待つ必要があるが、注目されるべき特集だと考える。

東大新聞の以下の記事も、宮崎早野論文の問題点をわかりやすくまとめている。

www.todaishimbun.org

木内岳志「「ノーベル賞がつらかった」田中耕一が初めて明かした16年間の“苦闘”」『文春オンライン』2019年3月26日

 「NHKスペシャル」のシリーズ「平成史スクープドキュメント“ノーベル賞会社員”~科学技術立国の苦闘~」第5回の内容の記事化になる。2002年(平成14年)にノーベル化学賞を受賞した田中耕一を取材した。NHKで放送された番組とセットでの評価で、この記事を取り上げた。

www.nhk-ondemand.jp

 平成の時代に日本のノーベル賞受賞者が多く生まれたが、それは昭和の遺産であること、そして現在は運営費交付金が減らされるなどの施策の結果、「科学技術創造立国」から離れつつあることが番組内で指摘されている。田中はノーベル賞受賞後、メディアとは距離を置きつつ研究を続け、アルツハイマー病の診断につながる測定技術を開発し、“Nature”に論文が掲載された。内閣府の「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」プログラムに採択され、若手研究者の雇用もおこない、いまも第一線の研究者・技術者として活躍している。番組とあわせて記事を読むと、田中の「二度目の成功」例が特殊であることがわかる。衰退しつつある日本の科学技術の問題を考えさせられる。

深澤真紀・松本俊彦・岩永直子「深澤真紀さん、松本俊彦さん薬物報道を斬る」(1)〜(5)、番外編『Buzz Feed News』

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-1

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-2

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-3

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-4

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-5

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-viking

 

 活発に依存症に関する啓発活動をしている、精神科医の松本俊彦と、コラムニストでテレビのコメンテーターもつとめる深澤真紀の対談シリーズ。薬物依存症に関しては誤解が多い(そして、偏見もともなう)。「厳罰より治療が必要なこと」「非犯罪化が薬物使用の低下につながっている」「暴力性との関連は、アルコール使用の方が大」などの、世の中での(現在における)正しい知識が行き渡っていないのが現状だ。医学者としての松本、精神疾患の当事者およびテレビのコメンテーターとしての深澤との対談の形式をとることで、正確な科学的知識を伝えるだけに止まらず、寛容な社会に向けた処方箋も提示するという、多くの人びとが共感・納得しやすいであろう優れた連載になっている。

毎日新聞『今週の本棚』『フェルメールと天才科学者』書評を寄稿

mainichi.jp

 毎日新聞の書評欄に『フェルメールと天才科学者』の書評を寄稿しています。

 

フェルメールと天才科学者:17世紀オランダの「光と視覚」の革命

フェルメールと天才科学者:17世紀オランダの「光と視覚」の革命

 

  同じ年に同じ都市(デルフト)で生まれた二人。フェルメールとレーウェンフックは友人同士だったのではないか? という説はたびたび耳にします。ただ、この二人が知り合いだったという決定的な史料は見つかっていないとのこと(状況証拠はいろいろあるのに)。ただ、本書の作者は二人が知り合いかどうかにはこだわらず、17世紀のデルフトで生きた二人が「見ること」の革命を担ったという共通点があるという軸を立てます。

 レンズという当時の最新機器が熱狂的に受け入れられ、レンズ等を通じて科学と芸術が融合していた時代を感じとることができるユニークな本です。

朝日新聞・論壇委員(科学技術)

digital.asahi.com 

 今年度から、朝日新聞の論壇委員をつとめることになりました。「科学技術」のジャンルを担当することになります。

 チェアは津田大介さん。各界のジェンダーギャップを解消しようと取り組む津田さんの意向で、この論壇委員のジェンダーバランスも3:3になっています。

 各委員が雑誌・インターネット等々の論考を読み込み、各々が自分の担当で注目する論考を持ち寄り、月1回の論壇委員会で議論する。それをもとに、津田さんがオピニオン欄で「論壇時評」を執筆する、という流れです。また、各委員はローテーションで「あすを探る」や「論×論×論」のコーナーを担当します。

 書評をお仕事にするようになってから、そこそこの年月は経ったかと思いますが、このような論壇を評する立場をつとめるのは初めてです。右も左もわからない状態ではありますが、精進しますのでご指導・ご鞭撻いただけますと幸いです。