中公新書創刊55周年「わたしの好きな3冊」
毎日新聞『共依存の倫理』書評寄稿
今週の本棚:内田麻理香・評 『共依存の倫理-必要とされることを渇望する人びと』=小西真理子・著 - 毎日新聞
本日の毎日新聞に書評を寄稿しています。著者は分離を促す現状の回復論には個人主義などの倫理観が背景にあるといい、分離だけではない回復の道を提案します。
2017年「民間放送連盟賞」テレビ教養部門・審査員
2017年度の民間放送連盟賞のテレビ教養部門の審査員をつとめました。最優秀賞は広島テレビ放送の「NNNドキュメント’16 知られざる被爆米兵~ヒロシマの墓標は語る」、日本でも米国でもほとんど知られていない被曝米兵に焦点をあてた作品。優秀賞は秋田朝日放送「シリーズ輝石の詩file11 KAMAITACHI~ハサの記憶~」、BS-TBS「ヨーロッパ財宝ミステリー 消えた黄金列車の謎×西島秀俊」、新潟放送「BSNスペシャル 俺は工場の鉄学者」、チューリップテレビ「異見~米国から見た富山大空襲~」、関西テレビ放送「ザ・ドキュメント 夢への扉「課題研究」 ~先生を越えて進め~」、熊本放送「命の記録~写真家・桑原史成の水俣~」。秀作揃いの2017年度でした。おめでとうございます。
今年は、審査委員長だったので、雑誌『民放』(2017年11月号)で講評「多様な価値観を提示する教養番組」を寄稿しています。機会がありましたらぜひ。
今週の本棚『男が痴漢になる理由』書評寄稿
今週の本棚・新刊:『男が痴漢になる理由』=斉藤章佳・著 - 毎日新聞
毎日新聞の「今週の本棚」に、書評(短評)を寄稿しています。
痴漢を依存症として治療対象としてきた臨床家の手による書。加害者は性欲ゆえではなく「認知の歪み」により痴漢する。痴漢が嗜癖である、という分析は『アディクションと加害者臨床』にも繋がりますね。
セクハラ、パワハラの加害者は、自己評価が低く、自分を肯定して欲しいがために弱者に対してハラスメントする。そして自覚なく繰り返す。痴漢だけでなくハラスメント加害者が「認知が歪んでいて自己評価が低く、自分を肯定して欲しいがために弱者に対してハラスメントする嗜癖」という研究結果に納得する方は多いかと思います。
さらに、加害者が「相手もそれを望んでいるから」「正義のため」などと自己正当化しているという研究結果も。
『科学を伝え、社会とつなぐ:サイエンスコミュニケーションのはじめかた』国立科学博物館編(丸善出版)
ご恵贈御礼。日本国内の、最新のサイエンスコミュニケーションの入門書に相当するでしょうか。
科学を伝え、社会とつなぐ サイエンスコミュニケーションのはじめかた
- 作者: 独立行政法人国立科学博物館
- 出版社/メーカー: 丸善出版
- 発売日: 2017/09/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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国立科学博物館(以下、科博)は2006年からサイエンスコミュニケーターの育成に取り組んでいますが、その10年以上の成果を集積した一冊です。科博で開講している講座は「サイエンスコミュニケーション1」「サイエンスコミュニケーション2」がありますが、その双方を修了した「国立科学博物館認定サイエンスコミュニケーター」は今や119名にのぼるとか。
その講座を通して得られたノウハウが、この1冊にまとめられています。第1部が多様なサイエンスコミュニケーションの概論。第2部が科博の講座で教えられる
・科学を『深める』
・科学を『伝える』
・科学と社会を『つなぐ』
の具体例を中心に、解説されています。
著者は研究機関、メディア、企業……などなど、さまざまな分野で活躍されているサイエンスコミュニケーターの方々。各々の得意分野でその持ち味を披露するスタイルの本なので、具体的な話題が特に興味深い*1。
サイエンスコミュニケーションの射程範囲は広く、その全てを網羅するのは至難の業です。ただ、本書は「科学知識や情報の伝達、共有」の機能のサイエンスコミュニケーションに特化してコンパクトで読みやすくまとまっており、「そもそもサイエンスコミュニケーションって何?」「なんとなく興味があるんだけど」「とりあえず何か関わってみたい」と考える方々に対する、格好の入門書になるかと思います。より少し知りたい読者には、巻末の参考図書が助けになるでしょう。
*1:贅沢を言えば、それだけに執筆者紹介を巻末にまとめるのではなく、担当した部分の前に執筆者のプロフィールを書いて欲しかったな、と。
毎日新聞『魅了されたニューロン:脳と音楽をめぐる対話』書評寄稿
毎日新聞の「今週の本棚」欄に、書評を寄稿しています。
今週の本棚:内田麻理香・評 『魅了されたニューロン…』=P・ブーレーズ、J=P・シャンジュー、P・マヌリ著 - 毎日新聞
現代作曲家であり指揮者のブーレーズ、神経科学者のシャンジュー、作曲家のマヌリというメンバーが揃った豪華な鼎談です。
- 作者: ピエールブーレーズ,ジャン=ピエールシャンジュー,フィリップマヌリ,Pierre Boulez,Jean‐Pierre Changeux,Philippe Manoury,笠羽映子
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2017/08/28
- メディア: 単行本
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異分野同士の専門家の対談や鼎談は、それだけで企画として面白いものの、蓋を開けてみると、そのお題に対して表面をなぞったコメントを寄せるだけで終わってしまうものが少なくないですが。そんな心配はご無用の、見事な音楽と科学の融合を果たした刺激的な鼎談になっています。なにしろ、ブーレーズは科学的視点を取り入れて、新しい音楽制作の展開を目的とするフランス国立音響音楽研究所(IRCAM)を組織した人物で、理詰めで現代音楽を作り続けた巨匠。シャンジューは単なる音楽好きの科学者ではなく、一時期、作曲を習っていたこともある筋金入り。そこに、IRCAMの活動に早い時期から関わり、ブーレーズと父子的な関係を築いているマヌリが加わっているという布陣。
これがフランスの教養人というあり方なんでしょうか。3人とも音楽と科学以外の教養も深く、哲学や美学の話がバンバン登場します。それだけに、読み進めるのはハードではあります。でも、それがまた衒学的というわけではなく、それぞれの話題が意味を成している。知的にも感情的にも揺さぶられる、楽しい読書体験でした。
印象的な箇所は多いですが、個人的には「報酬」、「報酬の先取り」に関わる話が面白かったでしょうか。音楽の創造をする者は報酬に導かれ、そして音楽を聴く者は報酬や報酬の先取りによって楽しむ、という。
ぜひ読んで頂きたい一冊です。
日本経済新聞『ラボ・ガール』書評寄稿
日本経済新聞に書評を寄稿しています。
対象本はこちらです。
「いわゆる理系女性の自伝本ね……」というノリで読み始めたのですが(すみません!)、これが良い方向に予想を裏切られまして。著者のキャラクターも魅力的、文章も巧み。『赤毛のアン』のような物語を連想させる作品でした。著者が専門とする植物に関する挿話も楽しい。新たなジャンルの物語を開拓したのでは?
『赤毛のアン』にせよ、『若草物語』にせよ、当時としては珍しい"職業婦人"(あえてこの言葉を使ってみる)が、自らの体験をもとに作られた小説ですよね。著者、ヤーレンのチャーミングで、ある意味めんどうくさそうなキャラが本の中で七転八倒する様子は、読者として応援したくなります。そして、さわやかな読後感。
全米でベストセラーになり、数々の賞を受賞したのも納得の作品です。この手の「面白いから読んで!」的な作品を書評したり紹介するのって難しいですね……。自分の力のなさを、つくづく感じました。とにかく、全力でおすすめです。