内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

ブログというかお仕事日記というか身辺雑記というか。

プラハ滞在ホテル "Golden Well Hotel"

 プラハで滞在した一つ目のホテルはこちら。

www.goldenwell.cz

 プラハ城近くの閑静な場所にある、"Golden Well" ホテルです。こちらはルドルフ2世の隠れ家として使われていて、のちに天文学者、ティコ・ブラーエに下賜されたというお屋敷を改築して作られたホテルだそう。

GoldenWell入り口

 エントランスからもう、隠れ家らしさ満点。

GoldenWell入り口看板

 エントランスにあるシンボル(見にくくてすみません)には、ホテルの名「黄金の井戸」の名前の由来である伝説が描かれているとか。その伝説とは、18世紀にプラハにペストが流行したとき、この井戸の水を飲んだ者はペストに患うことがなかった。のちに調べたところ、その井戸には黄金があり、その黄金が井戸の水を薬に変えていたとか。

(こちらの雑誌参照)

 ……あれ、この話、どこかで聞いたことが。藤田和日郎氏の『からくりサーカス』に出てくる「柔らかい石」と「アクア・ウイタエ」? うん、あの作品もプラハも舞台にしているし、錬金術もからくり人形も出てくるし、元ネタであってもおかしくない。

 

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 こちらは中庭。

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 フロント近くには、ルドルフ2世とティコ・ブラーエが仲良く並んでいます。

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 ルドルフ2世はハプスブルク家神聖ローマ皇帝ハンガリー王、ボヘミア王であった人物。政治的にはぱっとしなかったようですが、学問と芸術を愛好していて理解が深く、特に錬金術占星術天文学に傾倒して学者たちを世界各地から集めパトロンになっていたとか。錬金術占星術も、今では科学とは認められてはいませんが、当時は先端の学問であり近代化学や天文学の礎になったのですから、ルドルフ2世の功績は大きいでしょう。そのお気に入りの学者の一人が、天文学者のティコ・ブラーエ。

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 このホテルのスイートルームには二人の名前を冠した部屋があります。


 お部屋にあったティッシュボックスまでルドルフ2世&ティコ・ブラーエ推し。

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 お部屋の内装も華やかながら落ち着いていて、かつ機能的で居心地が良い……というか、この分不相応な環境に慣れてはいけない! という葛藤に闘いながらではありますが。

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 毎晩、枕元にはスイーツのサービスが。毎日違うものが出てきて、しかもおいしい。

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 滞在中に誕生日を迎えたので、サプライズでバースデーケーキをいただきました。中はムースのチョコレートケーキ。丁寧な手書きのメッセージ付きという心遣いも嬉しい。

 現実から遠く離れたような素敵な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。

 

 

 

プラハへの旅

 1週間ほどチェコプラハへ旅してきました。完全なプライベートです。前々から行きたいと思っていた都市のひとつでした。

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 上は、カレル橋の入り口の塔(マラー・ストラナ橋塔)。
 プラハは「おとぎの国のよう」とよく表現されますが、まさにその言葉の通り。10世紀頃からの多種多様な建築が奇跡的に残っています。

 プラハに到着したのは夜で、長時間のフライトで疲れ切っていたのですが、この魔法にかけられたような、幻想的な街並みを目の前にしてテンションが上がってしまい、旧市街地を歩き回り……さらに疲れるという。

 でも、ホテルの入り口からこんなですから。疲れも吹っ飛んでしまいます。

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 これは旧市街地にある、旧市庁舎の天文時計。上が地球を中心にまわる太陽・月・その他の天体を動きを示していて、下は黄道十二宮を描いています。
 

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 1週間程度では、プラハという都市ひとつだけでも堪能しきれません。いろいろ回ったんだけどね……プラハ城、ストラホフ修道院の図書室、オペラ×2、マリオネット劇、美術館、博物館、技術館などなど。

 全体として感じたのは……1000年以上の歴史ある街*1でありながら、新しいものも柔軟に取り入れる。そして、スラブ民族チェコ人としての誇りを大切にしながらも、他民族に対しても大らか。振れ幅が大きく、一日ごとに印象が変わります。この街のファンが多いのもよーくわかります。

 今回の旅についてはおいおい書いていきます。

*1:他の土地に行くときもそうだけど、プラハに関しては特に、事前に勉強しておけばおくほど楽しめる街だと思う。

毎日新聞「今週の本棚」書評掲載『近代科学のリロケーション』

 本日の毎日新聞に書評掲載です。

今週の本棚:内田麻理香・評 『近代科学のリロケーション −南アジアとヨーロッパにおける知の循環と構築』=カピル・ラジ著 

対象本はこちら。

近代科学のリロケーション―南アジアとヨーロッパにおける知の循環と構築―

近代科学のリロケーション―南アジアとヨーロッパにおける知の循環と構築―

 

 科学革命以降の近代科学を、西欧中心主義でもなく、地域主義でもなく「帝国主義時代は支配/被支配の関係にある人々が協力し合って新たな知を作り上げ、循環していた」という立場で、多様な実例を交えて書かれた本。著者がインド出身、現在はフランスで教鞭をとっている立場だからこその視点でしょう。まんまSTS科学技術社会論)、科学コミュニケーションの参考書でございました。

 近代科学とはいえ、そのカバーする範囲は広く、植物学、地理学、測量調査に止まらず、言語学、法学、公共政策の事例を取り上げています。

 今回、書評では印欧語(インド・ヨーロッパ語)の発見者で言語学者として名高いウィリアム・ジョーンズ(実際は法律家でした)の話に焦点を絞りましたが、他の章もいずれも興味深い。19世紀後半のトランスヒマラヤ中央アジアの調査では、インド人調査がチベット僧をよそおい(正体がバレてしまうと速攻殺されてしまうという危険な任務)、歩数計、六分儀、磁気コンパスなど時代遅れの技術を使って、正確で信頼できる地図を作り上げた下りもエキサイティングです。

 ただ、著者も書いているとおり、これらの事例が「近代科学」として一般化するのは難しいでしょう。さらに、帝国側と植民地側の「対話」で新しい知が生まれ、環流されたといっても、対話の場に持ち込むのは当然のことながら支配/被支配という関係があったから可能であったこと。そして、対話の相手もお互い「知識人」同士に限られていたこと。これはかなり重要なポイントではあると思います。

 とはいえ、異なるコミュニティに属する者同士で、知識創造の場をデザインするという観点に立った場合、示唆の多い一冊です。

「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2016」特別講演・コーディネータ

 11月2日(水)に東京国際フォーラムで開催される、NEC主催の「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2016」の特別講演「複雑化するリスクから社会を守る—2020年、さらにその先の安全・安心な都市」のコーディネータをつとめます。

uf-iexpo.nec

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 大きな国際的イベントの開催を控える大都市東京。より一層多様化、複雑化するリスクに対し、2020年、さらにその先の都市のレジリエンスを考え、危機管理の方法について探ります。

登壇者:
・公益財団法人東京オリンピックパラリンピック競技大会組織委員会 理事/チーフ セキュリティ オフィサー
 米村 敏朗氏
・公益財団法人 公共政策調査会  研究センター長
 板橋 功氏
NEC 東京オリンピックパラリンピック推進本部 本部長
 鈴木 浩氏

モデレータ

サイエンスライター
 内田 麻理香氏

 ウェブサイトから登録ができます。興味のある方はぜひよろしくお願いします。

「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2016」の2日間全体の講演、セミナーはこちらです。豪華だ。

uf-iexpo.nec

人工知能は人間を超えるか?: 講演・セミナー | NEC
 では、羽生善治氏と松尾豊先生の競演ですか。これは私も拝聴したい。

 当日お目にかかる皆様、どうぞよろしくお願いします。

『オレンジページ』2016/08/17号「暮らしのトリビア劇場」監修

  雑誌『オレンジページ』2016年8月17日号のコーナー、「あななたち、まだ知らなくって!? 暮らしのトリビア劇場」で、監修という形で協力させて頂きました。

オレンジページ 2016年 8/17 号 [雑誌]
 

 

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「くもったグラスじゃおいしく飲めないわ!」に対する、イケメン執事の回答は? 本誌の漫画をぜひご覧下さい。

 いわゆる暮らしのコツを教える形式としては、経験豊かな年配の女性が、若い女性に教えるという設定が多かったように思えますが*1、このコーナーはひとひねりした設定で笑えます。「高飛車なお嬢様」に、豆知識豊富な「イケメン執事」が教えるというコメディ漫画形式。

 「教える側」「教えられる側」に、ステレオタイプではない多様な設定が増えるのは嬉しいことです。勉強になりました。

*1:科学の場合は、ヒゲのおじいさん「博士」が「助手」(女性である場合が多い)に科学的知識を教える、という設定も未だ健在。

毎日新聞「今週の本棚」マガジン評『MONKEY Vol.9』寄稿

 本日の毎日新聞の「今週の本棚」にマガジン評(雑誌評)を寄稿しています。対象の雑誌はこちら。(麻)の一文字署名が入っています。

MONKEY Vol.9 短篇小説のつくり方

MONKEY Vol.9 短篇小説のつくり方

 

 『MONKEY』は、翻訳家(元東京大学教授)の柴田元幸氏が編集責任をしている雑誌です。前々から面白そうとは思っていたのですが、今回、ようやくじっくり読むことができました。

 特集は「短編小説のつくり方」とありますが、短編小説のつくり方指南ではありません。柴田さんが「『不思議な短編小説のつくり方をする人が、この世にはいるもんだなあ』という思いを形にした」と前書きに書いてあるとおり。グレイス・ペイリーというユダヤ系ロシア出身・米国在住の作家を、村上春樹氏の訳で紹介し、柴田氏による村上春樹のインタビュー(相変わらずこの二人は息が合っている!)、そしてその他の執筆陣を通して「短編小説の奥深さ」をこれでもか、と魅せてくれています。

 初めてグレイス・ペイリーの短編を読んだのですが、次の一文が予想もつかない方向に飛ぶ、主語が誰かわからなくなる……(『この「祖母」ってだれのこと?』)というわけで、行きつ戻りつ読んでいたのですが。リズムがつかめるようになるとハマる。
 特別な出来事を書いているわけでもない、特別な人を登場人物に出しているわけでもない。でも、結果的に独特な短編小説になっている。まさに不思議なつくり方をする作家です。
 ペイリーが出自、家族や友人との強固な繋がりから、これらの小説が生まれているというのもまた良い。ついつい、ペイリーの短編集も買ってしまいました。

人生のちょっとした煩い (文春文庫)

人生のちょっとした煩い (文春文庫)

 

  ペイリーは寡作で、出版した書籍は3冊。そのうち2つが村上春樹訳で日本で出版されており、もう一つが

最後の瞬間のすごく大きな変化 (文春文庫)
 

  こちらの本になります。

 この雑誌がなかったら、ペイリーの短編小説を読むことはなかったかもしれません。ありがたい出会いに感謝。この号に載っているペイリーの短編小説、エッセイ、インタビューは全て村上訳。村上春樹氏は、本人の小説やインタビュー集もそうだけど、翻訳に関してもハイテクだなあとつくづく思い知る。別人が書いている(訳している)ように見えますからね。

 それにしてもこの『MONKEY』という雑誌、他の寄稿している方々も豪華だし(写真、イラストも)、贅沢な雑誌です。何より、編集長の柴田さんが一番楽しそうなのがよーーーくわかる。ご機嫌さがこちらにも伝わってきます。

毎日新聞「今週の本棚」『才女の歴史』書評を寄稿

 本日の毎日新聞の「今週の本棚」に書評が掲載されています。今週は大書評(いつもより文字数が多い)で書いてます。対象本はこちら。

才女の歴史―古代から啓蒙時代までの諸学のミューズたち

才女の歴史―古代から啓蒙時代までの諸学のミューズたち

 

  書評はこちらからも読むことができます。

今週の本棚:内田麻理香・評 『才女の歴史−古代から啓蒙時代までの諸学のミューズたち』=マルヨ・T・ヌルミネン著 - 毎日新聞

 隣のページには、対象本の挿画にあった、ハーシェル兄妹の絵(カミーユ・フラマリオン)、ラヴォアジエ夫妻の絵(ナポレオンの肖像画で有名なダヴィッド、この絵も18世紀肖像画の最高峰と言われている)を入れていただきました。ありがとうございます。

 さて、こちらの本。「女性教養人はどこに行ってしまったのか?」という疑問を抱いた元ジャーナリストの著者ヌルミネンが、古代から啓蒙時代までの諸学で功績を残した女性たちを魅力的に描いたものです。書き切れませんでしたが、読みどころ多し。注釈・引用文献等も含めると、500p近い鈍器本ですが、退屈しないで楽しめるかと思います。

 ただやはり、ここに登場した女性教養人たちは環境が恵まれています。裕福だったり、親戚やパートナーが学問を修めることを応援していたり、など。特に父親が理解がある例が多かったように思います。

 また、書評にも書きましたが、学問、特に自然科学の発展とキリスト教の関連は深い。宗教改革後、科学革命が進んでいったのは偶然ではないでしょう。一方で、中世では女子修道院が学問を修める場となっており、図書館も兼ねていたという歴史も興味深い。

 アレクサンドリアのヒュパティアも書評中に取り上げましたが、彼女が天文学、数学、哲学で功績を残したのは確かなようですが、ギリシア天文学を引き継いでいるので、地動説ではなく天動説支持者です。映画「アレクサンドリア」を見て「あの時代に地動説!」「楕円軌道まで思いついていたのかー」との誤解が多いかもしれませんが、演出です。

kasoken.hatenablog.jp

 こちら、図版に掲載されたラヴォアジエ夫妻の絵。この絵は大好きで、「ニコニコ学会β〜ファイナル」の時に、ニコファーレの全面周囲LEDの画面に投影をお願いした絵のひとつ。

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 こちらのハーシェル兄妹の絵は、『才女の歴史』に登場していたものとは違うのですが、Wikipediaで見つけました。リトグラフ。作者はわからないのですが。ただこれだと、彼女も天文学者というよりは、ハーシェルにお茶を入れるだけのように見えてしまいますね。

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