『オレンジページ』2016/08/17号「暮らしのトリビア劇場」監修
雑誌『オレンジページ』2016年8月17日号のコーナー、「あななたち、まだ知らなくって!? 暮らしのトリビア劇場」で、監修という形で協力させて頂きました。
「くもったグラスじゃおいしく飲めないわ!」に対する、イケメン執事の回答は? 本誌の漫画をぜひご覧下さい。
いわゆる暮らしのコツを教える形式としては、経験豊かな年配の女性が、若い女性に教えるという設定が多かったように思えますが*1、このコーナーはひとひねりした設定で笑えます。「高飛車なお嬢様」に、豆知識豊富な「イケメン執事」が教えるというコメディ漫画形式。
「教える側」「教えられる側」に、ステレオタイプではない多様な設定が増えるのは嬉しいことです。勉強になりました。
*1:科学の場合は、ヒゲのおじいさん「博士」が「助手」(女性である場合が多い)に科学的知識を教える、という設定も未だ健在。
毎日新聞「今週の本棚」マガジン評『MONKEY Vol.9』寄稿
本日の毎日新聞の「今週の本棚」にマガジン評(雑誌評)を寄稿しています。対象の雑誌はこちら。(麻)の一文字署名が入っています。
『MONKEY』は、翻訳家(元東京大学教授)の柴田元幸氏が編集責任をしている雑誌です。前々から面白そうとは思っていたのですが、今回、ようやくじっくり読むことができました。
特集は「短編小説のつくり方」とありますが、短編小説のつくり方指南ではありません。柴田さんが「『不思議な短編小説のつくり方をする人が、この世にはいるもんだなあ』という思いを形にした」と前書きに書いてあるとおり。グレイス・ペイリーというユダヤ系ロシア出身・米国在住の作家を、村上春樹氏の訳で紹介し、柴田氏による村上春樹のインタビュー(相変わらずこの二人は息が合っている!)、そしてその他の執筆陣を通して「短編小説の奥深さ」をこれでもか、と魅せてくれています。
初めてグレイス・ペイリーの短編を読んだのですが、次の一文が予想もつかない方向に飛ぶ、主語が誰かわからなくなる……(『この「祖母」ってだれのこと?』)というわけで、行きつ戻りつ読んでいたのですが。リズムがつかめるようになるとハマる。
特別な出来事を書いているわけでもない、特別な人を登場人物に出しているわけでもない。でも、結果的に独特な短編小説になっている。まさに不思議なつくり方をする作家です。
ペイリーが出自、家族や友人との強固な繋がりから、これらの小説が生まれているというのもまた良い。ついつい、ペイリーの短編集も買ってしまいました。
- 作者: グレイスペイリー,Grace Paley,村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/06/10
- メディア: 文庫
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ペイリーは寡作で、出版した書籍は3冊。そのうち2つが村上春樹訳で日本で出版されており、もう一つが
こちらの本になります。
この雑誌がなかったら、ペイリーの短編小説を読むことはなかったかもしれません。ありがたい出会いに感謝。この号に載っているペイリーの短編小説、エッセイ、インタビューは全て村上訳。村上春樹氏は、本人の小説やインタビュー集もそうだけど、翻訳に関してもハイテクだなあとつくづく思い知る。別人が書いている(訳している)ように見えますからね。
それにしてもこの『MONKEY』という雑誌、他の寄稿している方々も豪華だし(写真、イラストも)、贅沢な雑誌です。何より、編集長の柴田さんが一番楽しそうなのがよーーーくわかる。ご機嫌さがこちらにも伝わってきます。
毎日新聞「今週の本棚」『才女の歴史』書評を寄稿
本日の毎日新聞の「今週の本棚」に書評が掲載されています。今週は大書評(いつもより文字数が多い)で書いてます。対象本はこちら。
書評はこちらからも読むことができます。
今週の本棚:内田麻理香・評 『才女の歴史−古代から啓蒙時代までの諸学のミューズたち』=マルヨ・T・ヌルミネン著 - 毎日新聞
隣のページには、対象本の挿画にあった、ハーシェル兄妹の絵(カミーユ・フラマリオン)、ラヴォアジエ夫妻の絵(ナポレオンの肖像画で有名なダヴィッド、この絵も18世紀肖像画の最高峰と言われている)を入れていただきました。ありがとうございます。
さて、こちらの本。「女性教養人はどこに行ってしまったのか?」という疑問を抱いた元ジャーナリストの著者ヌルミネンが、古代から啓蒙時代までの諸学で功績を残した女性たちを魅力的に描いたものです。書き切れませんでしたが、読みどころ多し。注釈・引用文献等も含めると、500p近い鈍器本ですが、退屈しないで楽しめるかと思います。
ただやはり、ここに登場した女性教養人たちは環境が恵まれています。裕福だったり、親戚やパートナーが学問を修めることを応援していたり、など。特に父親が理解がある例が多かったように思います。
また、書評にも書きましたが、学問、特に自然科学の発展とキリスト教の関連は深い。宗教改革後、科学革命が進んでいったのは偶然ではないでしょう。一方で、中世では女子修道院が学問を修める場となっており、図書館も兼ねていたという歴史も興味深い。
アレクサンドリアのヒュパティアも書評中に取り上げましたが、彼女が天文学、数学、哲学で功績を残したのは確かなようですが、ギリシア天文学を引き継いでいるので、地動説ではなく天動説支持者です。映画「アレクサンドリア」を見て「あの時代に地動説!」「楕円軌道まで思いついていたのかー」との誤解が多いかもしれませんが、演出です。
こちら、図版に掲載されたラヴォアジエ夫妻の絵。この絵は大好きで、「ニコニコ学会β〜ファイナル」の時に、ニコファーレの全面周囲LEDの画面に投影をお願いした絵のひとつ。
こちらのハーシェル兄妹の絵は、『才女の歴史』に登場していたものとは違うのですが、Wikipediaで見つけました。リトグラフ。作者はわからないのですが。ただこれだと、彼女も天文学者というよりは、ハーシェルにお茶を入れるだけのように見えてしまいますね。
映画『アレクサンドリア』
仕事に関係あるので、『アレクサンドリア』を観賞。今はネット上で映画が購入できるので、楽になりましたね。
Amazonビデオにもあるようです。
4世紀のエジプトのアレクサンドリアを舞台にし、実在した女性天文学者、数学者、哲学者として活躍した実在する女性、ヒュパティアをヒロインにした歴史ドラマです。
この映画はいろいろな視点から見ることができるのが興味深い。ギリシア科学が繁栄していたアレクサンドリアという都市の様子、そのアレクサンドリアで天文学などの教鞭をとり研究していた女性が1500年以上も前にいたこと、そして宗教の異教徒への残忍さ……ヒュパティアもキリスト教徒ではない魔女という理由で惨殺されます。
2時間以上の映画でしたが、あっという間に思えるくらい楽しめました。ただ、気になったのは天動説を採用していた(プトレマイオスの研究と講義をしていた)にも関わらず、地動説の立場をとっていて、さらに、さらにヒュパティアが「地球は楕円軌道で太陽の回りを運行している」と閃いてしまうという脚色。さすがに……とは思ったが映画に対して史実がどうこう言うのは野暮だしね。
この点については、 id:saebo さんの評が的確でしょう(宗教の描き方に関する解釈も含め)。
おそらくかなりちゃんと歴史を勉強した上でコンセプトのために意図的に史実を曲げている。(中略)ヒュパティアが1200年も後のケプラーの業績を先取りしていたという話になるところがリアルではないということで鑑賞会では不評だったのだが、これは明らかにヒュパティアとガリレオとかジョルダーノ・ブルーノみたいに教会に弾圧された科学者とヒュパティアを重ねようとする意図の結果で(途中で「地球が動くとはバカな…」みたいなことを司教が言う場面がある)、カトリック教会批判を打ち出すために故意にやっていることである。この点、コンセプトとか意味不明で「なんかおもしろそうだから」みたいな感じで史実を変えまくった『もうひとりのシェイクスピア』とは心意気が違う。
実際、キリスト教と科学の関係は切っても切れない(それは現在も米国で進化論ではなく創造論を信じる人が多いのと同じだ*1)。そのようなコンセプトがあれば、史実に対してあれこれ言うつもりもない。
*1:2015年でようやく、米国で進化論を信じる人が過半数越えしたという調査があったが。
毎日新聞「今週の本棚」書評掲載『気になる科学』
本日の毎日新聞に書評(短評なので、Webに掲載されず、(麻)の一文字署名です)が掲載されています。ぜひ本紙のほうで確認していただけたら。
対象本はこちらです。
既に単行本で出されていますが、加筆されて文庫化されました。著者は文系出身で科学を長く担当してきた記者。加筆部分の「科学とジェンダー」の部分で、発表当初のSTAP騒動の記事を戸惑いながら新聞記事を書いているという下りは、著者の思いが読み手にも伝わってきます。読みどころの一つでしょう。
全体的には、鋭い感性で、科学を気軽に語るエッセイです。本当に気軽。本書のように、科学を特別視せず、井戸端会議や居酒屋談義で科学が語られるようになることを願います。
毎日新聞「今週の本棚」書評掲載『おいしい数学』
2016/06/12付の毎日新聞で、書評が掲載されています。対象本はこちら。
書評本文はこちらです。
毎日新聞:今週の本棚:内田麻理香・評 『おいしい数学−証明の味はパイの味』=ジム・ヘンリー著
「料理と科学」ネタは、自分でもさんざんやってきましたし、書いてもきましたが……これは異色の本です。なんと表現したらよいかわからない不可思議な本、でも読んでいるのが楽しくて、にやにや笑いながら読んでしまう。
訳者は、
Cooking for Geeks ―料理の科学と実践レシピ (Make: Japan Books)
- 作者: Jeff Potter,水原文
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2011/09/22
- メディア: 大型本
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と同じ、水原文氏。日本の料理事情と比較して注釈して下さるので、有り難いです。あと、『おいしい数学』の原文のなんともいえない、おかしみのある素敵な文を訳して下さったのは、水原氏の力量でしょう。
少し面倒なのが、書評本文でも載せたパイ生地の話。面白いと思って、うんうん考えていたのですが、これは中学受験的な算数の問題ですね。本文の77頁をぜひご覧下さい。図版があると「ああ、なるほど」と納得できるかと。
数学好きも、料理好きも二度楽しめる本だと思います。
ビブリオバトルでの拙著『恋する天才科学者』
先日出版した
面白すぎる天才科学者たち 世界を変えた偉人たちの生き様 (講談社+α文庫)
- 作者: 内田麻理香
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: 文庫
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の元本である
が、ビブリオバトルで取り上げられたのが嬉しい。
とはいえ、2007年出版で、筆致も未熟で情けない限りだが、そこも含めて採用して下さったのは著者としては感謝です。
デーリー東北新聞社:チャンプ本獲得者、決勝戦の抱負 (2015/09/15)
決勝に進出できるとは思っていなかった。本当にうれしくて、投票してくれた方に感謝の気持ちでいっぱい。
予選会では「本の面白さをどれだけ伝えられるか」を意識しながら発表した。また、観客の皆さんに聞こえやすいよう、はっきりと話すことを心掛けた。今回は手が震えるほど緊張したので、これから練習を重ねて、決勝に臨みたい。
理科を身近に感じたくてこの本を読み始めた。文章も柔らかかったので、すらすらと読めたし、有名科学者たちの「頭が固い」イメージを変える人間味を感じさせるような内容に引かれた。
決勝では、結果にこだわらず、作品の魅力を伝えることを大事にして取り組みたい。
15才の女子高生が選んで下さって、決勝までのチャンプ本に選ばれたのは著者冥利につきます。
では、東さんが取り上げて下さった。
東さん仰るとおり、この本はテンション高すぎて読むのには辛かったと思う。でもビブリオバトルに選んでくれて、本当にありがとうございます。
というか、この指導教員の中村征樹 id:nmasaki+bibliobattle 阪大准教授、最後の方で「(著者は)大学の同級生」とかお茶を濁さず、我ながらうざい文体を徹底的に排除したつもりの文庫版も紹介して欲しかった……(涙)。いえ、すみません、お送りします。
【追記】あとで中村先生に聞いたら、文庫版も紹介してくれたとか。そして、去年も女子学生に『恋する天才科学者』を選んでいただき、しかも今年のはチャンプ本になったということです。皆さん、ありがとうございます。
そんなことはともかく。ビブリオバトルという「口頭での書評合戦」に拙著が選ばれるのは、嬉しい限りです。