毎日新聞書評「今週の本棚」寄稿『中谷宇吉郎 雪を作る話』『寺田寅彦 科学者とあたま』
本日発売の毎日新聞に、書評を寄稿しています。
内田麻理香・評 『中谷宇吉郎 雪を作る話』『寺田寅彦 科学者とあたま』
書評対象本はこちらです。
最初は、中谷宇吉郎の本だけを書評しようと思っていたのですが、彼のことを書いていると師であり友人であった寺田寅彦に触れないわけにはいかない。そうなると、中谷の随筆を書評しているのか、寺田の随筆を書評しているのかわからなくなってしまい、担当記者さんに「中谷だけにするか、寺田も入れるかご判断お願いします」とお任せしたところ、二冊の本の書評にして下さった。ここでタイトルに中谷の本を入れて下さったところが担当記者さん、さすが! と。
私は、中学生の頃から柿の種 (岩波文庫)を愛読していて(私がいま、こんな仕事をしているのは寺田寅彦の影響も大きい。人生を方向付けた人でもある)、寺田寅彦ファンなのです。今回は中谷宇吉郎の評に徹しようと思ったのですが「あれ、寺田も同じようなこと言っていたような……」と改めて読み返してみると、この二人の関係を切って書評してしまうのはもったいない、と。
でも、中谷宇吉郎は単なる寺田のお弟子さんではなく、彼なりのオリジナリティがある。おそらく文学的表現に優れているのは師の寺田だろう。しかし、中谷の科学者としての営みや、科学的な描写は丁寧で、かつわかりやすい。これらの点においては師を超えていると言える。しかし、問題意識は共通していて(特に、科学教育)、互いに共鳴しあっているところから、師弟関係、いや友人関係の深さを見出すことができる。
科学に対する興味は自然に対する敬意によって養われる。これは、子供の頃に接した奇想天外なものや、化物などに対して抱かれたりするというのが両者の共通した考えだ。当時の科学教育は、知識の伝達を大事にするあまり、その手の非科学的なものを子供から排除しすぎではないだろうかと懸念する。これは今の科学教育にも通じる示唆であろう。
このあたりは、科学コミュニケーションや科学教育に携わる者は傾聴に値する両者の指摘だろう。化物だのいわゆる「科学的でない」ものを体感してこそ自然への興味が湧き、科学への興味が養われるというのが両者の主張だ。
それにしても、平凡社が「STANDARD BOOKS」がこのようなレーベルを新たに刊行したことが個人的に嬉しい。
科学と文学、双方を横断する科学者・作家の珠玉の作品を集め、一作家を一冊で紹介します。
と述べ、「知のスタンダード」となる文章を提案するという。今後の刊行も楽しみ。
拙著『面白すぎる天才科学者たち 世界を変えた偉人たちの生き様』刊行
2007年に刊行された
が、講談社+α文庫として発売されました。文庫版、とはいえ、文章全体を大きく書き直し、断頭台の露と消えた天才化学者ラヴォアジエも新たに収録し、新装開店です。
面白すぎる天才科学者たち 世界を変えた偉人たちの生き様 (講談社+α文庫)
- 作者: 内田麻理香
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/18
- メディア: 文庫
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Amazonでの説明はこちら。
女嫌いで喧嘩好きだったニュートン、女癖が悪かったアインシュタイン、現代数学をつくった不遇の天才ガロアは恋愛沙汰で決闘死、蘇る愛とロマンに生きた シュレーディンガー……歴史に残る偉大な科学者たちの人生は、強烈すぎて面白すぎる! 偉大すぎてダメすぎる巨人たちの激烈な人生を、その人間くさい素顔 とともに、人気サイエンスライターがコミカルに紹介。こんな偉人伝、読んだことがない!
帯の絵を描いて下さったのは
決してマネしないでください。(1) (モーニングコミックス)
などで活躍中の漫画家、蛇蔵さん。ありがとうございます。
単行本のときの川名潤さんの装丁も素敵でしたが(今さらながら、贅沢させていただいたな……としみじみ)、どちらもお気に入りです。
そして、単行本のときにもお世話になったイラストレーター、西谷直子さんが、いくつも本文中のイラストを描き直して下さいました。こちらも感謝です。
初めての単行本化は嬉しいです。文章に関しては、かつてのダメダメなものをかなり読みやすくしたつもりです。どうか、ご愛顧よろしくお願いします。
『女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?』村松秀、早乙女ケイ子著
Eテレで放送されている「すイエんサー」を作ったエグゼクティブプロデューサー、村松秀氏の著。
本当は、書評で取り上げたいくらいなのですが、私自身が「すイエんサー」に何回も出演させていただいており、今回の本も名前が出ていて数項目で多少関わっているので、利益相反を恐れてブログでの紹介になってしまいました。
女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか? (講談社現代新書)
- 作者: 村松秀,五月女ケイ子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/16
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
Kindle版も出ています。
女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか? (講談社現代新書)
- 作者: 村松秀
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/25
- メディア: Kindle版
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「すイエんサー」で披露してきた科学的思考法『グルグル思考』を
- 疑う力
- ずらす力
- つなげる力
- 寄り道する力
- あさっての方を向く力
- 広げる力
- 笑う力
とまとめ、番組での躍動感とともに、科学の思考法および科学リテラシーの優れた解説本、というか教科書になっています。
そもそも「すイエんサー」という番組にパイロット版から関わることができて、その内幕を見ることができたのも貴重な経験でした。すイエんサーガールズには「台本がない」。彼女たちは、目の前の疑問に対して必死に取り組むことになる(彼女たちの早く帰りたーいという、本音込みで)。
私は、今まで科学番組に対してクイズ番組などで正答を提示する「科学の結果」だけを伝え、「科学の営みのプロセス」を紹介するものがないかもしれない……と思っていたので、村松プロデューサーのこの手法での番組作りには嬉しく思い、驚き、尊敬しました。
台本のないすイエんサーガールズたちが、「グルグル思考」をしながら、身近な、でもそういえばいつも不思議だなと思っていた疑問を解決する。視聴者は、彼女たちのグルグル思考を見ながら共に体験した気分になる。優れた科学番組です。
グルグル思考を積み重ねたすイエんサーガールズたちが、東大をはじめとする有名大学の学生との勝負に勝利できたのも、納得のいく話です(詳細は本書をご覧下さい)。このグルグル思考は、科学的思考法や科学リテラシー(その定義はあいまいですが)を身につけるのための本質を突いているのです。
大人も、子供にもぜひおすすめしたい一冊です。「すイエんサー」のコンセプトを知ることができます。
ちなみに、村松氏は世間を揺るがしたヘンドリック・シェーンの捏造問題を追った番組を作り、『論文捏造』と書籍化し、科学ジャーナリズム賞も受賞しています。硬軟どちらもいける、科学番組のプロデューサーです。
日経ビジネス『Priv.』寄稿
日経ビジネスが発行する"Priv.(プライブ)"に寄稿しました。2冊のサイエンスに関連する本を紹介するエッセイです。
大人の女性のためのクオリティー・ライフスタイルマガジン
と紹介されているように、日経の女性読者の中でもセレブな働く女性向けの広告誌だとか。何を書いたらよいものやら、と迷いましたが、フィレンツェつながりで「旅の楽しみを深める、科学視点の予習」として、2つの本を紹介しました。
それにしても美しい広告誌ですね。寄稿できたことを嬉しく思います。お手にとる機会がありましたら、ぜひご笑覧下さい。
日本経済新聞:書評『マンモスのつくりかた』
本日の日本経済新聞に、書評が掲載されています。
対象本は、こちらです。
マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)
- 作者: ベスシャピロ,Beth Shapiro,宇丹貴代実
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2016/01/25
- メディア: 単行本
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著者は古生物DNAの研究者で、マンモスなど絶滅種を「脱絶滅」させる研究をしている。この本の読みどころは色々あって、古生物DNAの実験やフィールドワークでの様子もいきいきと描かれているし、生命科学について丁寧に説明してくれているので良い教科書にもなっている。
最も特筆すべき点は、単純に脱絶滅だけを視野に入れていないこと。「神になってよいものか」と自問自答し、復活した際の生態系への影響、野生に放つことができるのか……と、慎重に考えていることだ。科学技術が世に放たれたときの先も考える、科学者の姿勢は尊敬する。
マンモスが復活すると考えると胸が躍るが、その想いだけでは解決できない問題が山積しているのだ。
Ancient DNA -- What It Is and What It Could Be: Beth Shapiro at TEDxDeExtinction
著者のベス・シャピロのTEDxでのトークはこちら。
毎日新聞「今週の本棚」『医学の歴史』書評を寄稿
本日付の毎日新聞の書評欄に、書評が掲載されています。
対象本はこちら。
本文で「物足りなさを感じた」というのは、褒め言葉でして、入門書は物足りなくて人の知的好奇心をくすぐるのが役目だと思っています。とはいえ、本書は複雑極まる医学の歴史に筋を通してまとめた構成力が素晴らしい。
翻訳は id:akihitosuzuki 鈴木晃仁氏と鈴木実佳氏。本文を読んで「あれ?」と思うところがあったので(2カ所だけですが)、原文をKindle版で購入して確認してみたのですが、誠実かつ明快な翻訳でした(というか原文も良いですが、翻訳のほうが、よりわかりやすい。単に私が読めていなかっただけ)。本書は、訳者のおふたりにも恵まれて、良書になっているのだと思わされます。
この本は、丸善出版の「サイエンスパレット」シリーズに含まれます。新書だと侮ることなかれ。オックスフォード大学出版局の"Very Short Introductions"シリーズを翻訳し、さらに日本版の書き下ろしを加えた理系新書シリーズです。もとのシリーズが40カ国以上で翻訳出版されているのだから定評がある。書評していませんが、こちらもおすすめ。日本発。
そして、同じく日本発としては、
こちらを過去に書評しています。
今回ご紹介した『医学の歴史』を含め、「さっと読めるようで、実は深い」入門書が多いので、ぜひ。