内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

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毎日新聞『今週の本棚』『病魔という悪の物語 チフスのメアリー』書評を寄稿

 毎日新聞に書評を寄稿しています。

mainichi.jp

 チフスの不顕性感染者で「毒婦」などと呼ばれ、隔離されたまま一生を終えた「チフスのメアリー」。誰もが感染源となる今、メアリーの物語は私たちと地続きです。

 著者の金森修は、健康保菌者(キャリア、不顕性感染者)のうち、メアリーだけが不当な扱いを受けたのは、彼女がアイルランド系移民、貧しい賄い婦、女性、独身という社会的条件が、彼女の人生に不利に働いたと指摘しています。 社会的弱者ほど経済的なダメージが大きいのは、コロナ禍でも同じでしょう。

 料理を禁じられたメアリーは、一度解放されますが、再び賄い婦をしていることが発覚し、逮捕されます。でも、このメアリーを容易に断罪できるでしょうか。他に稼ぐ術がなく、健康保菌者という概念が広まっていなかった時代です。様々な業種の自粛が要請されるけど、適切な補償がなされない今にも通じる話だと考えます。

 この「ちくまプリマー新書」は、中高生対象のレーベルですが、大人にも読み応えのある、大人こそ読むべき本が揃っています。こちらの本もぜひ。