内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

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朝日新聞「論壇委員が選ぶ今月の3点」

 朝日新聞の論壇時評の欄で、「論壇委員が選ぶ今月の3点」が掲載されました。

digital.asahi.com

 私が選んだ〈科学技術〉の3点は以下の通りです。メモとともに紹介します。

黒川眞一・谷本溶「インテグリティの失われた被曝評価論文:宮崎早野第二論文批判」『科学』4月号

岩波『科学』の特集「ゆがむ被曝評価」の第3弾。特設サイトは以下。

雑誌『科学』 「ゆがむ被曝評価」特設サイト

 2月号では研究上の倫理的問題が、3月号では第1論文への批判が扱われた。第2論文は「除染には、個人線量低減効果があるとは明確にいえない」という結果が出されている。

 東大、伊達市の調査の結果等を待つ必要があるが、注目されるべき特集だと考える。

東大新聞の以下の記事も、宮崎早野論文の問題点をわかりやすくまとめている。

www.todaishimbun.org

木内岳志「「ノーベル賞がつらかった」田中耕一が初めて明かした16年間の“苦闘”」『文春オンライン』2019年3月26日

 「NHKスペシャル」のシリーズ「平成史スクープドキュメント“ノーベル賞会社員”~科学技術立国の苦闘~」第5回の内容の記事化になる。2002年(平成14年)にノーベル化学賞を受賞した田中耕一を取材した。NHKで放送された番組とセットでの評価で、この記事を取り上げた。

www.nhk-ondemand.jp

 平成の時代に日本のノーベル賞受賞者が多く生まれたが、それは昭和の遺産であること、そして現在は運営費交付金が減らされるなどの施策の結果、「科学技術創造立国」から離れつつあることが番組内で指摘されている。田中はノーベル賞受賞後、メディアとは距離を置きつつ研究を続け、アルツハイマー病の診断につながる測定技術を開発し、“Nature”に論文が掲載された。内閣府の「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」プログラムに採択され、若手研究者の雇用もおこない、いまも第一線の研究者・技術者として活躍している。番組とあわせて記事を読むと、田中の「二度目の成功」例が特殊であることがわかる。衰退しつつある日本の科学技術の問題を考えさせられる。

深澤真紀・松本俊彦・岩永直子「深澤真紀さん、松本俊彦さん薬物報道を斬る」(1)〜(5)、番外編『Buzz Feed News』

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-1

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-2

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-3

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-4

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-5

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/fukasawa-matsumoto-viking

 

 活発に依存症に関する啓発活動をしている、精神科医の松本俊彦と、コラムニストでテレビのコメンテーターもつとめる深澤真紀の対談シリーズ。薬物依存症に関しては誤解が多い(そして、偏見もともなう)。「厳罰より治療が必要なこと」「非犯罪化が薬物使用の低下につながっている」「暴力性との関連は、アルコール使用の方が大」などの、世の中での(現在における)正しい知識が行き渡っていないのが現状だ。医学者としての松本、精神疾患の当事者およびテレビのコメンテーターとしての深澤との対談の形式をとることで、正確な科学的知識を伝えるだけに止まらず、寛容な社会に向けた処方箋も提示するという、多くの人びとが共感・納得しやすいであろう優れた連載になっている。