内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

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レイモンド・ウィリアムズ『完訳キーワード辞典』

完訳 キーワード辞典

完訳 キーワード辞典

 サイエンスコミュニケーションのことを考えると、「文化」という言葉の解釈をあれこれ考えざるを得ない。「科学を文化に」という言葉はよく聞くが、では文化ってなに? と。長年、自分の中ではぼんやりしていたものを、ばしっと言語化してくれたレイモンド・ウィリアムズの長い革命に出会い、それ以来ウィリアムズに骨抜きにされてしまった。第三の文化の定義は「社会生活のあり方」と明言したことも含め、金言がたくさん。ちなみに、ウィリアムズに出会ったのは長谷川一氏の出版と知のメディア論―エディターシップの歴史と再生です*1

 ウィリアムズの言論は、マルクス主義を背景としていて、「ニューレフト」という言われ方もする。そして、この「辞典」は、決して中立的なものではなく、彼の思想に寄ったもの。自分たちに関係するキーワードを厳選し、ラテン語・ギリシア語などの語源から歴史を振り返り、ウィリアムズ流に、そのキーワードに含まれる「権威性」「差別的構造」を、ばっさりと抽出する。これがまた痛快。(私にとっては)萌え萌えの本です。

 特に、「文化」とか「社会」という言葉に興味のある方は面白く読めます!……と思いつつ、一方でこの手の解釈を嫌う人も相当数いるかもしれない。好き嫌いがはっきり分かれるかな? ちなみに「科学」とか「科学技術」のキーワードもあります。

 ちなみに、みんな大好きなオックスフォード英語辞典(OED)に対する批判も序文にあり(たいした批判ではない)。それに対し、OEDの編纂者が「(ウィリアムズが嫌う)権威でもって」反論したという解説のエピソードがあって、笑えました。

 ウィリアムズの主要テーマとしては、自らの出身「田舎」もあるんですよね。都会からの目線で、田舎「平和・純粋無垢・素朴」というイメージを押しつけながら、同時に「後進性・無知・偏狭」というイメージも併存している。私は仙台市という中途半端な都会に住んでいるため、その「田舎」のテーマに関してもいろいろ知りたいなと思った次第。研究テーマからは外れてしまうけど。

*1:これ、修士論文を書籍化したものとか……恐ろしい、つまり名著です