内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

ブログというかお仕事日記というか身辺雑記というか。

カレル橋&大道芸

 プラハの名所のひとつであるカレル橋 (Karlův most)。旧市街地と(プラハ城)城下町に横たわるヴルタヴァ川(モルダウ川)結ぶ、15世紀にできた橋です。宿泊したホテルが両方とも城下町側だったので、滞在中に何回も渡りました。

 カレル橋から眺める景色は絶景。

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 ただでさえ多いプラハの観光客が集まっているので、予想以上の賑わいよう。旧市街地寄りは深夜まで混雑しています(プラハの飲食店の閉店時間は23時頃が多い)。

カレル橋入り口

 夜のライトアップもきれいです。しかし、プラハの街全体の夜の景色、照明の使い方が上手で「ぼやー」っと浮かんでるように見える。どのようにライトアップしているんだろう? あの雰囲気がまさに「おとぎの国」感を増しています。

 橋の上では、露天もあるし、似顔絵描きの人もいるし、大道芸人もいる。その大道芸のレベルが高かったりするから驚き。カレル橋近くのレストランで食事していたとき、良い感じにヴァイオリンソロがBGMになっていたんですが、このヴァイオリンもカレル橋の大道芸人が弾いていました。普通以上にお上手だった気がするのですが。

 私はマリオネットの大道芸がお目当てだったのですが、意外といらっしゃらない。でも滞在時の最後の方で発見!

【動画】クリックすると再生されます(注:音が出ます)。

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 このおじさま、てきとーな感じでマリオネットを操っているのですが、本当にギターを弾いているように見える。

 ギター弾きのマリオネットって多いんでしょうか? 浦沢直樹氏の『MONSTER』でも登場しますね。下はルンゲ警部がプラハに到着し、カレル橋にいるところ。ルンゲが観ているのもギター弾きのマリオネット。

12巻第1章長い休暇

浦沢直樹『MONSTER』12巻1章「長い休暇」より)

Monster (12) (ビッグコミックス)

Monster (12) (ビッグコミックス)

 

  プラハ到着後のルンゲ警部の核心への迫り方は、惚れ惚れするぐらい見事ですよねえ。


国立マリオネット劇場

 プラハでのオペラ3日連続鑑賞の最終日は、マリオネットでの「ドン・ジョバンニ」。

National Marionette Theatre – About Us

 チェコといえばマリオネット。マリオネットでオペラを演じるのはどんなものか、と興味津々で国立マリオネット劇場へ。

 この劇場は、オーストリア=ハンガリー帝国の支配下で、チェコ語の使用を禁止されていた時代に、唯一チェコ語を使って上演することが許されていたのがマリオネット劇だったとか。

 こぢんまりとした劇場ながら、歴史を感じさせます。チケットを予約していなかったので早めに行きましたが、上演時には満席。9月に入ってハイシーズンを過ぎていたから予約なしでも大丈夫だったのかもしれませんが、予約していた方が安心かもしれません。

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  実は、正直それほど期待していなかったのですが、クオリティの高さに驚きました。子供も楽しめるコメディ演出にしているのですが、大人も唸る人形遣いの技。2時間は長いのでは? と思っていましたがあっという間。

【動画】クリックすると再生されます(注:音も出ます)。

マリオネット・ドンジョバンニ2

 人形遣いの人たちの、複数人の息の合った連係プレイもすごい。どの紐をどう動かしたらこんな動きになるんだ? と色々考えながらだから観ているだけでも忙しい&頭使う。上から人が動かすマリオネット、人形遣いの手の動きも含めて鑑賞に値します。

 そして、終盤に登場する石像になった騎士長がなんとゴーレム*1ユダヤ教の言い伝えにある動く泥人形)! ゴーレムはマリオネットではなく、人が入った着ぐるみです。

【動画】クリックすると再生されます(注:音も出ます)。

マリオネット・ドンジョバンニ

 チェコならではの演出だなあと。この国立マリオネット劇場もユダヤ人地区の近くにありますし。

 「ドン・ジョバンニ」の騎士長といえば、映画にもなった「アマデウス」のピーター・シェーファーの脚本にある「モーツァルトの亡くなったお父さん説」に、これまで頭が占められていましたが、この解釈はなるほどねえと唸る。

 マリオネット劇、チェコならではの素晴らしい文化ですね。何らかの制約があると、あるものが突出して発展する典型の一つかもしれません。

 そして、思わず藤田和日郎氏の『からくりサーカス』の白銀と白金のプラハでのこの場面が頭に浮かんでしまいました。

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からくりサーカス』15巻(藤田和日郎)より

  チェコのマリオネット文化に、すっかり夢中です。

*1:チェコのユダヤ人街で特にゴーレム伝説が有名な話は、黄金のプラハ―幻想と現実の錬金術 (平凡社選書)

に詳しいです。

ヴルトボヴスカー庭園 (Vrtba Garden; Vrtbovská zahrada)

 プラハに宿泊した二つ目のホテルが、Aria Hotel。こちらは、数あるプラハの庭園の中でも最も美しいと言われている(らしい)ヴルトボフスカー庭園(Vrtba Garden; Vrtbovská zahrada)に直結しているのも特徴。宿泊客は無料で入ることができます(夏期のみ)。

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 ホテルから外に通じるドアを開けたら、こんな風景が広がっているんですから。ホテル宿泊客だけではなく、外部からも入園料を支払えば入ることができます。

 庭にある階段を上っていくと……

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 プラハのマラー・ストラナ地区の景色を一望することができます。

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 これは聖ミクラーシュ教会ですね(何度も外からは見たのですが、結局中に入る時間はなく……残念)。

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 このアリア・ホテル、ウェブサイトを見ると結婚式プランも充実していて、私たちがいたときにも2組の新郎新婦が写真&ビデオ撮影をしていました。

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 ここで結婚式をするみたい。

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 ここのレストランでの披露宴もできるようですし、予定のある方いらっしゃったらお勧めしたい!

www.ariahotel.net

 花も美しい。これだけの庭園、維持するのは手間がかかるでしょうね。

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 天気が良く、いい時期に訪れることができてラッキーでした。

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チェコ国立博物館

 プラハのヴァーツラフ広場といえば、プラハの春ビロード革命の舞台となった場所。そのヴァーツラフ広場の端に、国立博物館があります。

 この国立博物館チェコ最大の総合博物館で、本館は19世紀末に建造されたルネサンス様式の建築物で国の文化財にも指定……なのですが、2018年まで全面改装工事中。

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 残念。でも、プラハの街を歩いていると、工事中のところだらけです。建造物も、石畳も。この各種様式の建造物が大事に残されていることが、プラハという街の価値であることが理解されているのだと思われます。

 お向かいにある新館は見ることができます。

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 新館では"Noah's Ark" (ノアの箱舟)という企画展示をしていたので、それを見てきました。

www.nm.cz 歴史のある国の博物館で見られる「これでもか、と物量で圧倒させる」という展示*1かなと思いきや、教育的かつ学術的、しかも配置等も工夫が感じられる勉強になる展示でした。ただ、これは長期間とはいえ企画展ですし、本館を見ていないので、これだけでチェコ国立博物館を語ることはできないのですが。

 「ノアの箱舟」というテーマに沿って、生物多様性、種の保存について展示しているのですが、小難しくならずにわかりやすい。何よりも、大量の剥製が並んでいるのが圧巻です。

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Noah’s Ark - Národní muzeum


 写真を撮っても良かったらしいと後で気付き……ウェブサイトの写真をお借りします。

 どこからこんなに大量の剥製を集めてきたんだろう。学術目的か、それともかつての富裕層が収集してきたものか*2? それぞれの種の動物が、とっておきの決めポーズでこちらをを見据えている様はひたすら格好いいし、恐ろしいほどの迫力。とまあ、剥製だけを眺めているだけでも楽しいのですが、それぞれの剥製に、その生物の説明と共に、国際自然保護連合(IUCN)レッドリストのカテゴリも表示されていている。そのレッドリストのカテゴリの違いも、最初に丁寧な説明があるのですが、忘れそうになる頃に随時簡単な説明が置いてあるという心遣い。

 イケ動物の剥製をただ並べているだけでなく、地域ごとに別れており、外来種の説明も入る。そして、チェコ近郊で行われている種の保存活動の解説もある。

 パネルの説明もわかりやすくて良いんですよね。

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 これなんて、地球の歴史とともに、どの時代にその種が繁栄したか(そしていつ絶滅したか)が一覧でよくわかる。このポスター欲しい(と思ったけど、売ってなかった)。

 このように、大人も子供も楽しめる質の高い展示が期間限定とは勿体ないです。もし機会があったら、修復後の本館も、他の企画展も見てみたいです。

*1:例えば、インドのニューデリーにある国立博物館とか。貴重そうなものがたくさん並べられているのだけど、その貴重そうなものが無造作にごろっと置かれていたりする。

*2:英語の情報だけではわかりませんでした。

オペラ観劇:「フィガロの結婚」@エステート劇場

 プラハのオペラ観劇2日目。今日は、スタヴォスフケー劇場(エステート劇場, Stavovské deivadilo; Estates Theatre)で「フィガロの結婚」です。

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 この劇場はとにかくW. A. モーツァルトとの関わりが深く、当時ウィーンではそれほど評判が高くなかった「フィガロの結婚」もこの劇場で上演したところ大評判、そして「ドン・ジョヴァンニ」の初演の場したことで有名。さらに、ミロス・フォアマンの映画『アマデウス』でオペラの場面を撮影した劇場として、もっと有名かもしれません。

 というわけで、劇場に入るなり『アマデウス』の世界だー! と楽しめます。フォアマン監督はチェコ人ということもあり、『アマデウス』の収録がプラハだったので、プラハの街全体が『アマデウス』の世界でもあるのですが、ここは特に。

アマデウス ディレクターズカット [Blu-ray]

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 劇場……美しいです。

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  オーケストラピットの前。こぢんまりとした劇場なので、オーケストラも小さい編成でした。でも、舞台との距離も近いので、十二分な迫力。

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 今回、ボックス席だったのですが、この劇場のボックス席良いです! まさに「プライベート空間」なのでくつろぎながらオペラを楽しめる。また、

kasoken.hatenablog.jp

でも書いたとおり、プラハの地元の人たちはドレスアップしつつも、リラックスして気軽にオペラを楽しんでいるので、その居心地の良さも含めて満足の時間でした。

 このモーツァルトに縁のある劇場で、「フィガロ」を観るのですから、ベタな選択です。観光客の方*1が多かったのも、同じような選択をするからでしょうか。

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 オーソドックスな演出ながら、いかにも「フィガロ」という愉快さを存分に堪能できました。

 「フィガロの結婚」ついでにご紹介したい映像がこちら。

モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》 [DVD]

モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》 [DVD]

 

 生誕250年モーツァルトイヤー、ザルツブルク音楽祭2006にて上演されたクラウス・グート演出による「フィガロの結婚」が収録されています。演出が斬新すぎます。モーツァルトならではの多幸感はまるでなし。おどろおどろしい演出ではありますが、歌手陣もオーケストラも素晴らしい。このオペラの脚本は、本来、上流階級を揶揄した「危険な作品」で、ウィーンで上演打ち切りになったのもよーくわかります。現代でも十分通じる皮肉、そしてドロドロした人間模様……オーソドックスな「フィガロ」と比較して観ると、なおさら楽しめるかと思います。

*1:地元の人よりもかなりカジュアルな格好でいらしていました。

プラハ土産:ボヘミアンガーネット

 相変わらず異国に行くと、散在してしまうのですが。今回、ボヘミアンガーネットのアクセサリーも入手。どうやら、チェコで採掘されるガーネットは良質らしく、さらにガーネットの細工技術は、ボヘミアングラスにも継承されたとか。

ボヘミアンガーネットは16世紀より産出され、17世紀には、ルドルフ2世の保護を受け、美しいボヘミアン・カットや石を爪だけで止める高度な技術が完成されたのです。

ボヘミアンガーネットの歴史。チェコの土地に受け継がれるアクセサリー

 ここにもルドルフ2世の名前が。チェコの芸術や科学絡みの話になると、決まって名前が出てきますねえ。

 ただ、最近は産出量も減って、ボヘミアンガーネット(チェコガーネット)は "Granát Turnov" という会社が独占販売しているとか。街中のお土産屋さんにもガーネットのアクセサリーはたくさん売られていますが、偽物も多いらしいので、そのお店に出向きました。

Bohemian Garnet - The cooperative Granát Turnov

 ショーケースに並べられたアクセサリーはどれも繊細で美しい……。あれもこれも! と興奮してしまいましたが、心を落ち着かせて2点に抑えました。それでも、予定の3倍のお値段を使ってしまいました。いや、後悔はしていない!

 こちらはブローチ。

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 これだけで止めておくつもりが、ついネックレスも。

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 ああ、ピアスも欲しかったなあ……(そっちの意味では後悔している)。ガーネットものは初めてで、しかもボヘミアンガーネットを手に入れることができたのは嬉しい。石言葉は、「永遠の愛」「真実」「情熱」「勝利」などなど……らしいです。

 

オペラ観劇:「売られた花嫁」@プラハ国民劇場

 プラハはオペラのチケットがお得です。いちばん良い席でも、日本円で5,000円強。これは行かねば損! ということで、二晩続けてオペラを観に行くことにしました。

 一日目は、国民劇場でスメタナの「売られた花嫁」を。

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 なんとも壮麗な劇場で、ため息が出てしまいます。これは19世紀に「チェコ語による、チェコ人のための舞台」を求めて、国民らの寄付によって建設された劇場です。ただ、オープン数年後で火災に遭い、再び寄付を集めて再建されたといいます。チェコ人の想いがこもった劇場といえるでしょう(このような建築物、芸術作品がチェコには多い)。

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 国民劇場では、毎日のようにオペラだけでなく、バレエ、現代劇などが上演されています。今回、観に行ったのは、チェコを代表する作曲家であるベルジドハ・スメタナの「売られた花嫁」。この作品も、チェコ語で書かれたチェコ国民を代表するオペラで、スメタナ民族音楽を取り入れつつも、ロマン派音楽の技法を沿って作り、ヨーロッパにチェコ音楽の存在感を示した作品になります。せっかく、チェコに来たのだからチェコらしいオペラを! ということでこの作品にしました。

 「売られた花嫁」は、序曲は聞いたことがある方が多いと思われる有名な曲ですが、オペラ全体は未見。というわけで、事前に予習しておきました。

スメタナ:「売られた花嫁」 (1DVD)

スメタナ:「売られた花嫁」 (1DVD)

 

 (注:日本語字幕はありません)

 で、DVDを観ながら感じたのは。コメディなんだろうけど、ストーリーが現代人の感覚で見ると「えええ」と思うところ多し。恋人イェニークに売られるヒロイン、マジェンカは、最終的にはハッピーエンドを迎えて終わるのですが、花嫁(ヒロイン)が結婚させられそうになる相手、ヴァシェクが知的障害者という設定。その彼の扱いがひどい。知恵で二人の愛の成就を! ということなんだけど、主役二人のする策略がねえ……。善良な好青年であるヴァシェクの魅力がむしろ際だってくるという。

 第2幕の冒頭の酒場の場面も、男性たちが「酒は憂さを晴らす、勇気を与えてくれる、最高」とばかりに高らかに歌っているのですが(で、女性たちが見守っている)、現在クローズアップされつつあるアルコールの諸問題を考えるとどうよ? とも思ってしまうし。その歌は依存症になっていく人、なってしまった人の常套句でしょう。これは現代では受け入れられるのが難しいオペラなのかな? だからこそ日本でも上演されることが希なのかな? と。

 国民的オペラなんだけど、この国民劇場でどう演じられるのか? と少々の不安を持って見始めたのですが、良い意味で予想は裏切られました。舞台のセットは現代的ながらも、登場人物の衣装は民族衣装という対比も良い。悪巧みをする結婚仲介人を冒頭からこれでもか、とコメディ演出でおちょくる。知的障害者のヴァシェクは、モテモテのイケメン設定(元のストーリーから考えても、モテておかしくない性格だしねー)。そして主役のふたりのずる賢さが逆に強調されるという。ダメ主人公たちで良いのかとは思いつつも、爽快。

 その第2幕の酒場の場面の演出も笑えます。4組の男女のダンサーたちが「酒飲み男を女が懲らしめる」という振り付けになっている。

 第3幕のサーカスの場面も素晴らしかった。サーカスのメンバーが踊っているところ、半分人形だったのは当初気がつきませんでした。ダンサーが人形らしく踊っている上に、人形の動きがまるで人間みたいなのです。そのダンサーと人形がアクロバティックな演技をするのは、ただただ驚き。さすが、マリオネットの国でもあります。そのサーカス団の一部が、突然、客席のボックス席から登場する演出も良い。

 オペラは脚本や音楽がそのままでも、その他の演出でいかようにも魅せ方をアレンジして変えることができるのだな、という好例でした(オペラに限らないけど)。チェコの総合的な文化度の高さに圧倒されました。もともとの脚本は古いけど、このような演出ごと日本に持ってきたら、日本でも人気出るんじゃないかな。

 チェコの文化度の高さといえば、オペラに来ているお客さんたちの様子でもわかります。おそらくオペラの敷居が低い。この国民劇場に来ている人たちはオペラ慣れしていて、皆さんそれぞれドレスアップしていながらも、リラックスしている(ほとんど地元の人たちと思われる)。そして、笑う場面では遠慮なく楽しそうに声を上げて笑う。映画を見ているような感じです。この劇場の雰囲気は、張り詰めたような様子のウィーンのオペラ座とかなり違いますね。

 チェコならではの文化度の奥深さを堪能することができた劇場、オペラでした。