内田麻理香ブログ:KASOKEN satellite

ブログというかお仕事日記というか身辺雑記というか。

オペラ観劇:「フィガロの結婚」@エステート劇場

 プラハのオペラ観劇2日目。今日は、スタヴォスフケー劇場(エステート劇場, Stavovské deivadilo; Estates Theatre)で「フィガロの結婚」です。

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 この劇場はとにかくW. A. モーツァルトとの関わりが深く、当時ウィーンではそれほど評判が高くなかった「フィガロの結婚」もこの劇場で上演したところ大評判、そして「ドン・ジョヴァンニ」の初演の場したことで有名。さらに、ミロス・フォアマンの映画『アマデウス』でオペラの場面を撮影した劇場として、もっと有名かもしれません。

 というわけで、劇場に入るなり『アマデウス』の世界だー! と楽しめます。フォアマン監督はチェコ人ということもあり、『アマデウス』の収録がプラハだったので、プラハの街全体が『アマデウス』の世界でもあるのですが、ここは特に。

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 劇場……美しいです。

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  オーケストラピットの前。こぢんまりとした劇場なので、オーケストラも小さい編成でした。でも、舞台との距離も近いので、十二分な迫力。

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 今回、ボックス席だったのですが、この劇場のボックス席良いです! まさに「プライベート空間」なのでくつろぎながらオペラを楽しめる。また、

kasoken.hatenablog.jp

でも書いたとおり、プラハの地元の人たちはドレスアップしつつも、リラックスして気軽にオペラを楽しんでいるので、その居心地の良さも含めて満足の時間でした。

 このモーツァルトに縁のある劇場で、「フィガロ」を観るのですから、ベタな選択です。観光客の方*1が多かったのも、同じような選択をするからでしょうか。

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 オーソドックスな演出ながら、いかにも「フィガロ」という愉快さを存分に堪能できました。

 「フィガロの結婚」ついでにご紹介したい映像がこちら。

モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》 [DVD]

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 生誕250年モーツァルトイヤー、ザルツブルク音楽祭2006にて上演されたクラウス・グート演出による「フィガロの結婚」が収録されています。演出が斬新すぎます。モーツァルトならではの多幸感はまるでなし。おどろおどろしい演出ではありますが、歌手陣もオーケストラも素晴らしい。このオペラの脚本は、本来、上流階級を揶揄した「危険な作品」で、ウィーンで上演打ち切りになったのもよーくわかります。現代でも十分通じる皮肉、そしてドロドロした人間模様……オーソドックスな「フィガロ」と比較して観ると、なおさら楽しめるかと思います。

*1:地元の人よりもかなりカジュアルな格好でいらしていました。

プラハ土産:ボヘミアンガーネット

 相変わらず異国に行くと、散在してしまうのですが。今回、ボヘミアンガーネットのアクセサリーも入手。どうやら、チェコで採掘されるガーネットは良質らしく、さらにガーネットの細工技術は、ボヘミアングラスにも継承されたとか。

ボヘミアンガーネットは16世紀より産出され、17世紀には、ルドルフ2世の保護を受け、美しいボヘミアン・カットや石を爪だけで止める高度な技術が完成されたのです。

ボヘミアンガーネットの歴史。チェコの土地に受け継がれるアクセサリー

 ここにもルドルフ2世の名前が。チェコの芸術や科学絡みの話になると、決まって名前が出てきますねえ。

 ただ、最近は産出量も減って、ボヘミアンガーネット(チェコガーネット)は "Granát Turnov" という会社が独占販売しているとか。街中のお土産屋さんにもガーネットのアクセサリーはたくさん売られていますが、偽物も多いらしいので、そのお店に出向きました。

Bohemian Garnet - The cooperative Granát Turnov

 ショーケースに並べられたアクセサリーはどれも繊細で美しい……。あれもこれも! と興奮してしまいましたが、心を落ち着かせて2点に抑えました。それでも、予定の3倍のお値段を使ってしまいました。いや、後悔はしていない!

 こちらはブローチ。

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 これだけで止めておくつもりが、ついネックレスも。

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 ああ、ピアスも欲しかったなあ……(そっちの意味では後悔している)。ガーネットものは初めてで、しかもボヘミアンガーネットを手に入れることができたのは嬉しい。石言葉は、「永遠の愛」「真実」「情熱」「勝利」などなど……らしいです。

 

オペラ観劇:「売られた花嫁」@プラハ国民劇場

 プラハはオペラのチケットがお得です。いちばん良い席でも、日本円で5,000円強。これは行かねば損! ということで、二晩続けてオペラを観に行くことにしました。

 一日目は、国民劇場でスメタナの「売られた花嫁」を。

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 なんとも壮麗な劇場で、ため息が出てしまいます。これは19世紀に「チェコ語による、チェコ人のための舞台」を求めて、国民らの寄付によって建設された劇場です。ただ、オープン数年後で火災に遭い、再び寄付を集めて再建されたといいます。チェコ人の想いがこもった劇場といえるでしょう(このような建築物、芸術作品がチェコには多い)。

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 国民劇場では、毎日のようにオペラだけでなく、バレエ、現代劇などが上演されています。今回、観に行ったのは、チェコを代表する作曲家であるベルジドハ・スメタナの「売られた花嫁」。この作品も、チェコ語で書かれたチェコ国民を代表するオペラで、スメタナ民族音楽を取り入れつつも、ロマン派音楽の技法を沿って作り、ヨーロッパにチェコ音楽の存在感を示した作品になります。せっかく、チェコに来たのだからチェコらしいオペラを! ということでこの作品にしました。

 「売られた花嫁」は、序曲は聞いたことがある方が多いと思われる有名な曲ですが、オペラ全体は未見。というわけで、事前に予習しておきました。

スメタナ:「売られた花嫁」 (1DVD)

スメタナ:「売られた花嫁」 (1DVD)

 

 (注:日本語字幕はありません)

 で、DVDを観ながら感じたのは。コメディなんだろうけど、ストーリーが現代人の感覚で見ると「えええ」と思うところ多し。恋人イェニークに売られるヒロイン、マジェンカは、最終的にはハッピーエンドを迎えて終わるのですが、花嫁(ヒロイン)が結婚させられそうになる相手、ヴァシェクが知的障害者という設定。その彼の扱いがひどい。知恵で二人の愛の成就を! ということなんだけど、主役二人のする策略がねえ……。善良な好青年であるヴァシェクの魅力がむしろ際だってくるという。

 第2幕の冒頭の酒場の場面も、男性たちが「酒は憂さを晴らす、勇気を与えてくれる、最高」とばかりに高らかに歌っているのですが(で、女性たちが見守っている)、現在クローズアップされつつあるアルコールの諸問題を考えるとどうよ? とも思ってしまうし。その歌は依存症になっていく人、なってしまった人の常套句でしょう。これは現代では受け入れられるのが難しいオペラなのかな? だからこそ日本でも上演されることが希なのかな? と。

 国民的オペラなんだけど、この国民劇場でどう演じられるのか? と少々の不安を持って見始めたのですが、良い意味で予想は裏切られました。舞台のセットは現代的ながらも、登場人物の衣装は民族衣装という対比も良い。悪巧みをする結婚仲介人を冒頭からこれでもか、とコメディ演出でおちょくる。知的障害者のヴァシェクは、モテモテのイケメン設定(元のストーリーから考えても、モテておかしくない性格だしねー)。そして主役のふたりのずる賢さが逆に強調されるという。ダメ主人公たちで良いのかとは思いつつも、爽快。

 その第2幕の酒場の場面の演出も笑えます。4組の男女のダンサーたちが「酒飲み男を女が懲らしめる」という振り付けになっている。

 第3幕のサーカスの場面も素晴らしかった。サーカスのメンバーが踊っているところ、半分人形だったのは当初気がつきませんでした。ダンサーが人形らしく踊っている上に、人形の動きがまるで人間みたいなのです。そのダンサーと人形がアクロバティックな演技をするのは、ただただ驚き。さすが、マリオネットの国でもあります。そのサーカス団の一部が、突然、客席のボックス席から登場する演出も良い。

 オペラは脚本や音楽がそのままでも、その他の演出でいかようにも魅せ方をアレンジして変えることができるのだな、という好例でした(オペラに限らないけど)。チェコの総合的な文化度の高さに圧倒されました。もともとの脚本は古いけど、このような演出ごと日本に持ってきたら、日本でも人気出るんじゃないかな。

 チェコの文化度の高さといえば、オペラに来ているお客さんたちの様子でもわかります。おそらくオペラの敷居が低い。この国民劇場に来ている人たちはオペラ慣れしていて、皆さんそれぞれドレスアップしていながらも、リラックスしている(ほとんど地元の人たちと思われる)。そして、笑う場面では遠慮なく楽しそうに声を上げて笑う。映画を見ているような感じです。この劇場の雰囲気は、張り詰めたような様子のウィーンのオペラ座とかなり違いますね。

 チェコならではの文化度の奥深さを堪能することができた劇場、オペラでした。

レストラン " Terasa U Zlaté studně"

 プラハで最初に宿泊したホテル Golden Well Hotel にあるレストラン Terasa U Zlaté studně でディナー。

Home | Terasa U Zlaté studně

 このホテル自体がプラハ城のすぐ近くにあるため、このレストランの眺めは最高。風景も美味しさを構成するひとつですね。

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 日没の時間が遅いので、この明るさから夕暮れ、夜景へと至る時間もすてきでした。

 このレストランのシェフは、プラハ No.1 と言われるシェフ、Pavel Sapík 氏。なんでも、7世代続く料理人一家の出身だとか。意外性がありつつも、洗練されたお料理の数々を堪能しました。

 まずは前菜。チェコ料理は野菜が少ない、と聞いていましたが、これらに限らず濃厚な味の野菜が活かされていました。

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 ロブスター。パッションフルーツのソースが合うのでびっくり。

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 フォアグラのテリーヌ。岩塩とベリーで濃厚さとさわやかさが最高のバランス。フォアグラという食材をそれほど良いと思ったことがなかったのですが、このテリーヌとこの組み合わせは初めて「おいしい!」と。

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 キノコのスープ。この少量ながらもどっしりしたスープ、スパイスが効いていて、ほんのり甘味もあり。

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 そろそろデザートかな? と思ったところにメインの肉料理。この鴨、鴨のはずなんだけど臭みがまるでない。さすが肉料理の国、肉の処理の仕方とか違うのでしょうか。これも岩塩が効いています。

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 見た目はなんてことのないシャーベットなのですが、パッションフルーツの味のあとに、ジンジャーの後味がしてこれまた驚き。甘いのに辛い! それなのにおいしい!

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 このデザートプレートは、全体でエスニック。タピオカとココナッツミルクのデザートを、組み立て直したような一皿でした。チョコレートソースもあるのに邪魔していない、しっかり調和している。

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 コーヒーをいただきながら、プチフール。見た目も可愛らしいですが、一つ一つがまた意外な味。奥のマカロンはハーブの味がするし、手前のトリュフもスパイスの味ががつんとして、ただ甘いだけじゃない。

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 チェコ料理か、と言われるとわからないけど(でも、キノコの濃厚スープとか、とにかく美味しいお肉とかはそれらしいのかな?)、意外性に満ちた料理ばかりで、驚きながらも楽しみました。でも、どれもこれも予想外な組み合わせなのに、しっかり調和しているのが素晴らしい。

 もしプラハにいらっしゃる方がいたら、全力でお勧め。予約は必須のようです。

ストラホフ修道院・図書室

 よく世界美しい図書館ランキングとかに選ばれる、プラハ・ストラホフ修道院にあるストラホフ図書室へ。修道院自体は12世紀に作られたのもので、現在も現役の修道院として使われています。図書室はそれよりあとの時代に作られたもの(とはいえ18世紀)。美しいのはもちろんのこと、智の重みに圧倒される場でした。

 この図書室は、今も独自の目録と学習室を持った科学研究機関として機能していて、神学、歴史学、芸術史などを専門とする研究者たちに対して開かれているそうです。

  こちらが、神学の間。

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 「神学の間」では天井のフレスコ画に「知恵・発見・博識 v.s. 信仰・宗教」の対立が描かれているとのこと。

 「神学の間」に、天球儀や地球儀のコレクションがあるのも興味深い。

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 天球儀&地球儀の奥に見える金色の扉は「禁断の書」が鍵をかけて保管されていたとか。

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 このはめ込み細工の回転式編集機は、調べ物をしながら文章を書くときに使ったようです。なるほど、機能的です。

「哲学の間」は天井までぎっしり蔵書があって総数約5万点! 数学、物理学、天文学歴史学、芸術学、文学、詩集、百科事典などなど……。

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 その天井には人間の精神史のフレスコ画が。

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 人間の精神を描いた絵画が、これだけ広い分野にわたる膨大な書に支えられている様子は、積み重ねられた学問の重みをずしりと感じると共に、学問の目指すところは途方もない遠くにあることも伝わってきます。一つや二つの部屋でここまで心を動かす部屋があるんですね。

 「神学の間」と「哲学の間」をつなぐ廊下には、法学や医学、薬学の蔵書のほか、博物学の資料から仏像までなんでもあり。その懐の深さにも驚きました。

プラハ滞在ホテル "Golden Well Hotel"

 プラハで滞在した一つ目のホテルはこちら。

www.goldenwell.cz

 プラハ城近くの閑静な場所にある、"Golden Well" ホテルです。こちらはルドルフ2世の隠れ家として使われていて、のちに天文学者、ティコ・ブラーエに下賜されたというお屋敷を改築して作られたホテルだそう。

GoldenWell入り口

 エントランスからもう、隠れ家らしさ満点。

GoldenWell入り口看板

 エントランスにあるシンボル(見にくくてすみません)には、ホテルの名「黄金の井戸」の名前の由来である伝説が描かれているとか。その伝説とは、18世紀にプラハにペストが流行したとき、この井戸の水を飲んだ者はペストに患うことがなかった。のちに調べたところ、その井戸には黄金があり、その黄金が井戸の水を薬に変えていたとか。

(こちらの雑誌参照)

 ……あれ、この話、どこかで聞いたことが。藤田和日郎氏の『からくりサーカス』に出てくる「柔らかい石」と「アクア・ウイタエ」? うん、あの作品もプラハも舞台にしているし、錬金術もからくり人形も出てくるし、元ネタであってもおかしくない。

 

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 こちらは中庭。

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 フロント近くには、ルドルフ2世とティコ・ブラーエが仲良く並んでいます。

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 ルドルフ2世はハプスブルク家神聖ローマ皇帝ハンガリー王、ボヘミア王であった人物。政治的にはぱっとしなかったようですが、学問と芸術を愛好していて理解が深く、特に錬金術占星術天文学に傾倒して学者たちを世界各地から集めパトロンになっていたとか。錬金術占星術も、今では科学とは認められてはいませんが、当時は先端の学問であり近代化学や天文学の礎になったのですから、ルドルフ2世の功績は大きいでしょう。そのお気に入りの学者の一人が、天文学者のティコ・ブラーエ。

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 このホテルのスイートルームには二人の名前を冠した部屋があります。


 お部屋にあったティッシュボックスまでルドルフ2世&ティコ・ブラーエ推し。

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 お部屋の内装も華やかながら落ち着いていて、かつ機能的で居心地が良い……というか、この分不相応な環境に慣れてはいけない! という葛藤に闘いながらではありますが。

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 毎晩、枕元にはスイーツのサービスが。毎日違うものが出てきて、しかもおいしい。

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 滞在中に誕生日を迎えたので、サプライズでバースデーケーキをいただきました。中はムースのチョコレートケーキ。丁寧な手書きのメッセージ付きという心遣いも嬉しい。

 現実から遠く離れたような素敵な時間を過ごすことができました。ありがとうございました。

 

 

 

プラハへの旅

 1週間ほどチェコプラハへ旅してきました。完全なプライベートです。前々から行きたいと思っていた都市のひとつでした。

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 上は、カレル橋の入り口の塔(マラー・ストラナ橋塔)。
 プラハは「おとぎの国のよう」とよく表現されますが、まさにその言葉の通り。10世紀頃からの多種多様な建築が奇跡的に残っています。

 プラハに到着したのは夜で、長時間のフライトで疲れ切っていたのですが、この魔法にかけられたような、幻想的な街並みを目の前にしてテンションが上がってしまい、旧市街地を歩き回り……さらに疲れるという。

 でも、ホテルの入り口からこんなですから。疲れも吹っ飛んでしまいます。

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 これは旧市街地にある、旧市庁舎の天文時計。上が地球を中心にまわる太陽・月・その他の天体を動きを示していて、下は黄道十二宮を描いています。
 

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 1週間程度では、プラハという都市ひとつだけでも堪能しきれません。いろいろ回ったんだけどね……プラハ城、ストラホフ修道院の図書室、オペラ×2、マリオネット劇、美術館、博物館、技術館などなど。

 全体として感じたのは……1000年以上の歴史ある街*1でありながら、新しいものも柔軟に取り入れる。そして、スラブ民族チェコ人としての誇りを大切にしながらも、他民族に対しても大らか。振れ幅が大きく、一日ごとに印象が変わります。この街のファンが多いのもよーくわかります。

 今回の旅についてはおいおい書いていきます。

*1:他の土地に行くときもそうだけど、プラハに関しては特に、事前に勉強しておけばおくほど楽しめる街だと思う。